駅で取り憑かれた話
投稿者:N (13)
最初は新人に優しかった先輩や上司が次第に厳しくなってきたのを機に、俺は転職しようかなって求人のサイトをスマホで眺めてた。
この日も前日の残業疲れで睡魔に襲われた俺は立ったまま吊革に自重を預けてこっくりこっくりと半分寝ていたんだけど、急ブレーキという程でもない揺れが伴って体が前後左右におどけた。
周囲の乗客が騒ぎ出したから何か起こったんだろうと思ったが、直後に接触した旨のアナウンスがあったので全員が「あっ」と察した顔を浮かべていた。
まあ、半分以上は面倒くさそうな苛立ちを浮かべていたが、俺は会社に遅れる口実が出来たので内心束の間の休息を得て喜んだ。
勿論、数時間遅れて出社すれば顔を出した途端に上司に怒られたが、そんな理不尽な叱責も日常茶飯事だったからのらりくらりと躱す。
その日の帰り、今日は残業が3時間程度で終わったからラッキーと思って近場の居酒屋で同僚と軽く飲んでから駅に向かったんだが、ホームに足を踏み入れた途端に妙な悪寒がした。
時間的にはまだまだ人の波がごった返していたんだけど、どうにも人に見られている視線っていうか、形容しがたい感覚が突き刺さって思わず周囲をキョロキョロと見渡す。
でも、特にその感覚の正体は分からなかった。
んで、電車が来たから普通に乗って駅を発ったんだけど、駅が遠ざかる中、ホームに一人ポツンと佇んだ人影が見えた。
それに気づいて何気なしに見ていたら、たぶん女性だと思うんだが、顔面を覆う程の毛髪の下から青白い顔を上げて俺の方を向いたんだ。
一瞬だけドキッとしてすぐに目を逸らした。
間違っても恋に発展する様なときめきじゃなくて、得体の知れない恐怖を覚えた方のドキッ。
時間帯的にも飲みすぎて嘔吐した女性は大概あんな感じに顔面蒼白だが、それ以上に生気を感じさせない青白さが怖かった。
幽霊の存在は信じなくはないけど、心霊番組とかその手の類が苦手な方だから、俺は今しがた見た女の事はすぐに忘れたいと思って深く考えない様にした。
その甲斐があってか、三日くらいホームであの女を見かける事は無かった。
やっぱりただの酔いつぶれた女だったか、なんて気を抜いていたらその帰りのホームでその女を見かけて一気に寒気が全身を包んだ。
その日はシラフだったからあの女が泥酔状態で見た幻覚じゃない事が分かったが、同時にはっきり見えているせいでただの変な酔っ払い女とも思え、関わり合いにならないように距離を取っていつもと違う車両に乗る事にした。
そして電車が出発して窓越しに流れていくホームを見ていたら、やっぱりあの女だけは乗車せずにホームに立ちっぱなしで電車を恨めしそうに見送っていた。
しかし、女がグイっと顔を上げると、その女の額の右側あたりが大きく陥没?抉られているみたいに不自然に無くて、俺は「うわッ」とちょっとした悲鳴を上げてしまった。
それにさっきまでは血なんてついてなかった様に見えたが、女が顔を上げた途端にその陥没場所から血と言うか、肉片みたいなドロドロしたものがとろけたチーズみたいに垂れてきて、それを見た俺は急激に吐き気が込み上げて来て「うっ」と口許を抑えて中腰に屈んだ。
そのせいで周囲の乗客は俺が嘔吐するんじゃないかと軽くパニックになって俺から距離を開けた。
冷ややかな視線を浴びた俺は意心地が悪くてすぐに逃げるように車両を移動したが、何とか嘔吐する事無く自宅最寄りの駅まで我慢した。
その駅のトイレに駆け込んで嘔吐したけど。
二年も同じ駅を利用しているのに初めて幽霊らしきものを見てしまった俺は、翌日会社の同期でもあるAにこの体験談について相談した。
目的は体験談を話す事で不安感を解消したかっただけだけど、Aが思いの外真面目に聞いてくれたので思った以上に肩の荷が降りた気がした。
「もしかして疲労のせいじゃね?お前、働きすぎなんだよ。有休とってしっかり休めよ」
Aは俺が疲労のあまり幻覚が見えたんじゃないかと勘繰り、休暇をすすめて来た。
俺自身、ブラック職場が体に馴染んでいたせいか、疲労で幻覚を見た線はまったくもって考えていなかった為、結構衝撃だった。
他にも内科とかすすめられたが、病院が苦手な俺は一先ずしっかり睡眠を取る事で解消できないか試す事にして、それが駄目だったら内科で頭がおかしくなったか見てもらうかと笑いながらAに言ったら呆れた目で見られた。
Aのアドバイス通り、何とか上司に頼み込んで一日だけ取れた有休を使って久々にのんびりした休みを堪能してみた。
ひながテレビを見ながらソファで寛ぎ、たまに仮眠して起きてはご飯を食べて、買い出しついでに近隣を散歩。
そのお陰で翌日は体がすっきりしている反面、出勤が憂鬱になったが、まあ、それなりにリフレッシュできた自覚はあった。
最寄り駅で人身事故多いから怖いんだが😠
読ませるねえ
こわすぎ
ガラス越しにこちらを見つめるたくさんの目のところとか映像化したらめちゃくちゃ怖いだろうな
同僚Aの優しさだけが救い