夜中に顔を覗きこむ髪の長い女
投稿者:with (43)
俺が大学生になって一人暮らしをした時に体験した話なんだが、当時の俺は苦学生でワンルームの安いアパートに住んでいた。
二階の角部屋でロフトもあり、わりかし気に入ってたんだが、どうにも夜になると寒気というか、違和感を覚えることが何度かあった。
その頃、生活費の為に大学へ通いながら深夜のアルバイトもしていて、極端に睡眠時間がとれなかったせいか、よく夢に魘されていた。
「うう…」
夢の中でも俺は自宅のアパートで布団に潜って眠っているのだが、主観と俯瞰を混ぜ込んだような曖昧な視点で室内を見渡している。
自分でも夢の中で魘されている自覚があるが、どうにも夢は覚める気配はなく、なぜだか腹痛も引き起こしていた。
そんな事が何回か続いたある日の夜、また同じ夢に魘されていると、今度は空中にうっすらと腕が浮かんでいて、腕は俺の腹部を突き刺すように振り下ろされた。
「痛っ…!」
思わず声をあげたが体は金縛りにあったように動かない。
しばらくお腹を掻き回されると、腕は気が済んだのか空中に消えていった。
翌日、何気なしに大学の友人に金縛りにあったことを話すと盛大に笑われた。
「お腹をぐりぐりやられてさ、マジ痛かったわ」
「マジでそんなことあるんだ」
友人は幽霊を信じるタイプではなかったが、疲れてるから夢に見たんだろうと労ってくれる。
そして、同じ夢を見るようになって二週間くらい経過した夜、俺はまた夢に魘された。
「またかよ」
なんて、軽口を叩こうにも体が動かないので正直怖い。
しかし、これまでの経験からこれなら起こる現象の順序を頭の中で整理して、とにかく耐えることに決めた。
まず金縛りが始まり寝苦しさで魘され、次に腕が現れてお腹を攻撃してくるので腹痛になる。
しばらくすると腕は満足して消える……そう思って耐えていたが、腕が消えた後も金縛りは解けなかった。
もう何十分経ったのか金縛りが解ける気配はない。
そもそもこれは夢なんだろうか?
現実と同じ間取りで同じ場所に布団を敷いて寝ているが、夢との区別はどこでつけたらいいのか分からず、俺は混乱し始めた。
この部屋は玄関と部屋の間に仕切りやドアはなく一方通行なんだが、しばらくすると玄関のほうからやけに視線を感じた。
目を向けると何かモヤのようなものが見える。
モヤはゆっくりと俺の方へ近づいてくる。
部屋の窓は磨りガラスなので俺はカーテンをつけていなかった。
月明かりがモヤの正体を照らす。
「うひぃ!」
俺は声にならない悲鳴を上げた。
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