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不思議体験

本宮晃樹さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

放浪する落とし穴
長編 2026/06/09 01:27 128view

 このセリフはいまでもよく覚えている。もし相手が1人だったら、独立独歩を旨とするカズはわたしの軟弱さ加減にひどく失望しただろう。幸いにも彼の期待を裏切ることなく、加害者は複数だった。
 いじめといっても小学6年生である、その実態は(いまにして思えば)たかが知れていた。せいぜいやりたくもない野球を強制されたり、自転車のスポークを折られたり、筆箱を隠されたり、ポコペンの鬼を毎回やらされたり、転校前の小学校を侮辱されたりするくらいであった。
 読者はこんな程度でなにをくよくよしているのだ、と苛立つだろう。ニュースでは比較にならないほどの苛烈ないじめに遭って自殺した子の悲惨な日々を報道しているではないか、と。言わせてもらう。いじめのつらさは内容ではなく、毎日悪意を持った集団から一方的に迫害を受けているという事実そのものなのだ。

 わたしは懸命に涙をこらえながら、相手は複数の人間だとついこぼしてしまった。カズは同情するでも叱咤激励するでもなく、具体的になにをされているのかを知りたがった。それは質問ではなく尋問であり、有無を言わせぬ迫力があった。徹底的にいっさい合切、泥を吐かされた。
 一通り聞き終わると、彼は深く長くため息をついた。眉間に何本もしわが寄っている。彼は怒っていた。激怒していた。
「主犯格は誰や」
 わたしはあっくん、梅君、宗宮君の名前を反射的に挙げていた。この連中以外の従犯のなかには、密かにわたしのことを気づかって「大丈夫か」と声をかけてくれる人物もいた。だがこの3名については情状酌量の余地はなかった。彼らは死ぬべきであった。死なねばならなかった。

「写真、あるか」
 大急ぎで自宅へ戻り、修学旅行の際に撮影されたクラス写真を提出した。
「住所、わかるか」

 正確な住所はわからなかったが、おのおのの自宅の場所は知っていた。
「この3人がおらんようになってほしいと思うか」
「思う」
 即答した。偽らざる本音であった。

     *     *     *

 その後はまるでいじめの自白などなかったかのように、6年生の夏休みは矢のように過ぎていった。
 わたしは7月下旬までに夏休みの宿題を片付けていたので、8月いっぱいは遊びに費やすことができた。カズたちと一緒に川に、山に、ときには4トントラックの荷台に――道交法など存在しないかのように――乗って福井県の水晶浜まで連れていってもらったこともあった。
 それにもまして楽しかったのは、夜遅くまで〈ディアスポラ〉のメンバーとロウソクの火を囲んで四方山話にふけったことである。5人は慎重に自分たちの来歴を語らぬよう留意していたようだが、準レギュラーメンバーのわたしは身内同然の扱いだったこともあり、しばしば油断が見られた。ついうっかり出身地を語ってしまったり、チームに加入したときの年齢を明かしたり、両親がどんな人物だったのかを漏らしたり――。
 それらをつなぎ合わせると、おぼろげながら彼らがどのような集団なのかが浮かび上がってきた。

1、5人は出身も生い立ちもまったく異なる他人同士のチームである。

2、全国を旅してまわっている。
3、メンバーの中には中学すらまともに出ていない者がいる。
4、彼らの両親は実の息子が出奔しても、捜索届ひとつ出さないロクデナシである。
5、全員が例外なく、高い学識とサバイバル能力を両立している。

 もっともらしく書き出したものの、以上の5項目は別段リーク情報を寄せ集めなくても想像で補える程度の内容ではある。換言すれば〈ディアスポラ〉と邂逅して2か月以上経っても、わたしは彼らについてなにひとつ知らなかったも同然だった。慎重な5人のことなので、漏らしても構わない情報だけを故意に流していたのかもしれない。
 ともあれわたしはスパイの真似事をするために、夏の夜の雑談に加わっていたのではない。そこで交わされる年上の――当時のわたしからすれば独立した大人の――集団に入れてもらっているという事実そのものが、胸躍らせる体験だったのである。
 話の内容についていけないことも多々あったけれども(いまになって思い返してみると法律関係のやり取りが大半を占めていた)、彼らの年齢にふさわしいバカ話や冒険譚も耳にする機会があった。
 わたしはときには笑い、ときには手に汗握ってメンバーの語り口に聞き入ったものだ。

     *     *     *

 謎のジプシーたちと過ごした不思議な夏休みも、楽しいことばかりではなかった。
 いくら転校先のかっぺ連とつるみたくなくても、向こうがいけ好かない都会もんを放っておいてくれるとは限らない。わたしはしばしば連中に出頭を命じられ、野球のピッチャーなり、ポコペンの鬼なり、〈信長の野望〉の弱小武将でのプレイなりを意に反する形でやらされた。
 ことにポコペンの鬼のつらさは特筆に値する。ポコペンとは缶蹴りと似たような代物で、かくれんぼをよりシビアに先鋭化した遊びである。鬼は隠れている子を見つけにいき、タッチすることによって捕獲扱いとなる。すべての子を捕まえれば鬼側の勝利となる。ただし子のいずれか1人でも決められた印にタッチして「ポコペン」と叫べば、その時点で捕まっている子全員が解放されてしまう。

3/5
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