もう、かれこれ二〇年以上も前、神奈川某所に一軒家を借りて、家族三人で住んでいた頃のお話です。
当時、私たち夫婦は共働きで、娘を保育園へ送るのは夫、お迎えに行くのは私、という風な役割分担をしており、その日も、私は夕方5時頃に仕事を終えて、その足で娘を迎えに行き、近所のスーパーで買い物を済ませてから家に帰りました。
いつもの様に鍵を開け、家の中に入り、娘にうがい手洗いをする様に言って、私は買った物を冷蔵庫に入れる為、キッチンへと向かいました。
そこで、見知らぬ男性が、首を吊って死んでいました。
我が家のダイニングで、見ず知らずの男性が、天井から、だらーんとぶら下がって、死んでいたんです。
まるで時が止まったかの様に、私は、完全に硬直しました。
映画やドラマの様に、悲鳴を上げたり取り乱したりはせず、ただただ黙って、力無く垂れ下がる男性の遺体を見つめていました。
余りにも現実味を欠いた目の前の光景に、まるで理解が追い付かず、状況も一切飲み込めず、頭の中は疑問符で溢れ返るばかりで、思考も動きも完全に停止し、フリーズしました。
垂れ下がる遺体の直ぐ下には、排泄物の水溜まりが出来ていて、公衆トイレの様な、酷い悪臭が部屋中に充満していました。
ふと、テーブルに目をやると、メモが置いてある事に気付きました。
「お邪魔します」
とだけ書いてありました。
その横にはDIYに使う様な工具が幾つか置いてあり、どうやら男性は、それを使って、わざわざダイニングの天井に、首を吊る為のフックを取り付けた様でした。
床にはロープを縛り付けておく為の杭が、三本も突き刺してありました。大きい杭が二本と、小さな杭が一本。
その三本の杭が、なんだか私たち家族を彷彿とさせて、思わず「やだ」と声が洩れました。
ここでようやく、身動きが取れる様になり、私は押し寄せる吐き気に耐えながら、荷物を全部その場に放り出し、急いで洗面台へと向かい、うがいをしている最中だった娘を抱きかかえ、そのまま直ぐ様、家を飛び出しました。
そして、お隣さんに事情を話して、お宅に上げて貰い、電話をお借りして、警察に通報した後、直ぐに夫の職場にも連絡を入れました。
十分もしない内に、警察の車が数台やって来ました。
その後、私からの電話で急いで帰宅した夫と一緒に、警察から色々と聞かれましたが、私も夫も、本当に、あの男性とは一切面識がありませんでした。
所持品の中に免許証があった為、男性の身元は直ぐに判ったそうです。
警察によると、彼は、新潟県に住む二〇代の歯科衛生士の方で、数日前から行方不明になっていた為、親御さんから捜索願を出されていたそうです。
どうやって私たちの家に入ったのか、どうして私たちの家で自殺したのかは分からないと言われました。
けれど、私には、心当たりの様な物がありました。彼との面識はありませんし、彼が何故、自ら命を絶とうと思ったのかも分かりませんが、それでも彼が、何故、我が家を死に場所に選んだのか、その理由についてだけは、思い当たる節があったんです。
それは事件から数週間前の、ある晩の出来事です。
鳥肌たちました。
ひきずる怖さだね。
実話…!?怖すぎる
絶対トラウマになって夢に出てきそう(怖い怖い怖い怖い怖いコワイィイイイイ)