「もう20年以上経ちますが、あの時の仕打ちはずっと忘れないでしょうね」
そう前置きして川口さんは静かに語り始めた。
当時川口さんはOLとして広告代理店に勤めていて多忙な毎日を送っていたという。
その日は珍しく仕事が早く片付き、夜10時前に帰宅できた。
食事と入浴、その他家事を手際よく済ませ、さあもう寝るかといったタイミングで電話が掛かってきた。
「はい?」
「遅くにごめ~ん…いま大丈夫?」
相手は大学時代の友人のユカコだった。
以前はよく食事に行く仲だったがここの所疎遠になり最後に連絡を取ったのがいつだったか、川口さんはもうだいぶ久しぶりにその声を聞いた。
用件を聞くと直接会って話を聞いて欲しいという。
涙声の彼女の様子から察するに彼氏と別れたとかそんな痴情のもつれ話を聞かされるのだろうなぁと気が重くなったが、久しぶりの友人の頼みだし以前ランチをおごって貰った借りもあるので無碍に断ることもできず、あまり長く付き合えないけどと断りを入れて待ち合わせ場所の駅前へと車を走らせた。
到着してユカコを助手席に乗せた後、どこかに寄るかと尋ねるとこのまま車の中で話したいという。
ドライブしながら話を聞いてみると予想通り、長年付き合ってた彼氏に浮気されて最近別れた、もうどうすればいいかわからない、というお悩み相談であった。
ユカコは昔から思い詰めやすい所があり、後々まで引きずるタイプだったそうだ。
意気消沈している友人にとりあえず月並みな慰めの言葉をかけていると、ユカコは声のトーンを一段落として話し始めた。
「・・・実は私ね、もう生きてる意味ないやって思ってロープを用意したのね。それでネットで調べて首吊りの輪っかを作って天井のフックに引っかけて輪っかに頭を通したの・・・」
川口さんは思わずブレーキを踏んだ。
「え?え?ちょ、待って首吊りってあんたまさか」
話が思わぬ方向へ転がり慌てて口を挟む川口さんを、ユカコは片手を上げて制止した。
「最後まで聞いて。・・・でね、輪っかに頭を通して、乗っていた椅子を蹴飛ばしたの。
全体重が首にかかって、どんどん意識が遠のいていって、ああもうこれで終わりなんだなぁって思った時、信じられないことが起きたの」
ユカコはそこで間を置き、唖然としている川口さんを見つめた後、再び口を開いた。
「ブチッって、大きな音がしてロープが切れちゃったの。床に尻餅をついて10分近くずっと喘ぎながら咳き込んでて、ようやく収まってぼんやりしてた時、気付いたのね。きっとまだ死んじゃダメだって、神様が私に伝えてくれたんだって」
そこまで言ってユカコは両手で顔を覆い、泣き始めた。
「そうだよ、死んじゃダメだよ!生きなきゃ!絶対にまたいい人が見つかるって!辛いときは私もこうして話を聞くから、だからもう自殺なんて絶対しちゃだめだよ!」
川口さんも思わず貰い泣きをし、ユカコの肩に手を置きながらそう言い聞かせたという。
「うん・・・ありがとう・・・ありがとう・・・」
それからしばらく雑談しながらユカコのアパートへと帰り着いたのは、深夜1時を回る頃。
「今日はありがとね。すごく元気出た。ごめんね、こんな遅くに呼び出しちゃって。・・・あ、そうだ。ねぇ何か書くもの持ってない?」
ダッシュボードにペンとメモ用紙があると伝えるとユカコはそこから紙を一枚取りだし、何かを手早く書き付けた後、今度は丁寧にそれを四つ折りにして川口さんに差し出した。
























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