怒号が飛び、悲鳴が裂け、どよめきが渦を巻く。
それらは秋の空に吸い込まれ、跡形もなく消えていった。
東京S区、スクランブル交差点に面したF商業ビル前。
昼下がりのはずの街は、妙な静けさと緊張に支配されていた。
歩道に救急車が半ば乗り上げている。
周囲には野次馬が壁を作り、その外側の世界を遮断していた。
白布をかけられた遺体が担架に載せられ、後部ドアへ運ばれる。
動きは事務的で、感情はどこにもない。
その脇で、警視庁捜査一課の新人・朝生が、先輩の毒島に報告していた。
「飛び降りです。F商業ビル屋上から。即死」
「身元は大野正之、58歳。所持品から確認」
「着衣はブラウンのジャケット、黒スラックス」
「一階のアパレル店スタッフが目撃。清掃中、上から落ちてきたと」
一拍置いて、朝生は続けた。
「現時点では自殺と見るのが自然です」
毒島は煙草を噛み、火を揺らした。
「持ち物は?」
黒い証拠袋を開く音がする。
「財布。現金二万一千五十円。免許証。レシート数枚」
「煙草とライター」
「それと封筒が一通」
毒島の目が細くなる。
「遺書か?」
「違います」
朝生は封筒をつまみ上げた。
「宝くじです。一枚」
「……宝くじだと?」
毒島は煙を吐き、視線を上げた。
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