朝いつものごとく主人と娘を送り出した後、玄関先でなにげなく空を見上げると、いつの間にかどす黒い雨雲が零れた墨汁のように気味悪く広がっている。
しばらく眺めていると、冷たい滴がポツリポツリと額を濡らした。
どうやら一雨来そうだ。
慌てて門の横にある郵便受けを覗く。
相も変わらずダイレクトメールやチラシが数通入っている。
中から取り出そうとした拍子にストンと小さな茶封筒が落ちた。
─なにかしら?
拾い上げて表書きを見るが、なにも書かれていない。
封を破り、中を見ようとしたら、
「みさえさぁぁぁん…みさえさぁぁぁん」
義父の呼ぶ声がするので家に戻った。
※※※※※※※※※※
義父は今年、八十になる。
二、三年前までは元気だったのだが去年義母が亡くなり今年春に家族旅行に行ってから急に衰えだし、今は奥の和室でほとんど一日中寝たきりだ。
最近は少々ボケてきているようで、奇妙なことをよく言うようになってきている。
「みさえさん、実はな昨晩また天井の辺りに『ガシュインさま』がひょっこり現れて、近々こっちにうかがうと言ってたんじゃ。
『ガシュインさま』がここに来んしゃるのなら、わしもそろそろあっちの世界に行かんといかんのかのう……まだ死にたくないんじゃがのう……」
そう言って床の中で仰向けの義父は私の顔をじっと見ながら、頬の痩けた顔を寂しそうに歪めた。
最近は食欲も無くなってきていて、胸にはくっきりとあばら骨が浮いてきている。
手足は枝のようだ。
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