帰り道にラーメン屋に寄った。
いつも3人で行く駅前の個人店だ。
カウンターに座ると、店主がちらっとこっちを見る。
「今日は1人か」
「……はい」
短く答える。
妙に静かだった。
隣に誰もいないだけで、こんなに違うのかと思う。
「大学、もうすぐ無くなるらしいな」
ラーメンを湯切りしながら、店主が言う。
「らしいですね」
「ただでさえ客来ないのに困ったもんだよ」
とおどけながら、続ける。
「あそこ建てるとき大変だったらしいからなぁ」
少しだけ、手が止まる。
「何がですか?」
「出たんだよ。いろいろ」
麺をどんぶりに入れる音。
「骨とか、墓石とか。」
視線を上げる。
店主は気にした様子もなく続ける。
「昔、墓地だったらしい」
嫌な感じが、ゆっくりと腹の奥に落ちていく。
「でもまあ、処分するだけの予算がなかったみたいでな」
スープが注がれる。
「そのまま埋めて、上に建てちまったって話だ」
どんぶりが目の前に置かれた。
湯気が立ち上る。
店主はそれ以上言わなかった。
ラーメンを見下ろしたまま、しばらく動けなかった。
________________________________________
翌日。
喫煙所に行くと、火がついていないタバコを咥えた浅井がいた。
「よう」
声をかける。
「ああ、遠藤」
目がうつろで様子がおかしい。
「この前お前が言ってた女の事だけどさ…」
と切り出すと
「ん?いいとこだよな~」
と浅井はニタっと笑った。
「は?お前大丈夫か?」
視線が合わない。
そのまま、話は続かなかった。
________________________________________
放課後、浅井を捕まえた。
「ちょっといいか」
「ん?」
「歩いて帰るなよ」
自分でも、何を言ってるのか分からなかった。
「なんで?」
「いいから」
浅井は少しだけ首を傾げて、
「別にいいだろ」
と、軽く笑った。
そのまま歩き出す。
坂の方へ。
「おい」
俺は放っておいてはいけないと思い追いかける。
夕方の坂は、人が少なかった。
「待てって」
声をかけても浅井は反応しない。
「関わるなって言ったろ!」
またあの笑顔だ。
1人でぶつぶつと呟きながら歩いていく。
俺はその異様な雰囲気でそれ以上追いかけることができなかった。
________________________________________
それから、何度か止めようとした。
講義終わり。
昼休み。
帰り道。
でも、そのたびに浅井は同じことを言った。
「大丈夫だって」
「いいやつだよ」
「ちゃんと見てくれるし」
話が通じていない。
________________________________________
最後に浅井の形をしたものを見たのは、フェンスの向こう。
もう、校舎はなかった。
剥き出しの土。
掘り返された地面。
重機が並んでいる。
その中に、
1人、ぽつんと立っていた。
何もない場所に。
「おい」
フェンス越しに声をかける。
反応がない。
「浅井!」
もう一度呼ぶ。
ゆっくりと、顔が上がる。
こっちを見ているはずなのに、目が合わない。
それでも、口元だけが笑っている。
また同じ顔だった。




























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。