途端に松原のことが頭をよぎって、鞄を開く。
名簿。メール。写真。
全部、なかった。最初からいなかったみたいに。
背筋に寒気が走った。
「そんなわけ…」
思わず声が漏れてしまい、隣に立っている学生がこちらを向く。
バスを降りる。
足が、少しだけ重かった。
坂の方を見る。
浅井の姿は見えなかった。
講義中、内容は頭に入ってこなかった。
ノートの端に、何度も同じ名前を書いていた。
“松原 松原 松原”
消えないように、なぞるみたいに。
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昼休み。
「松原ってさ」
浅井が焦点の定まっていない目で口を開く
「松原?誰?」
早川が首を傾げる。
俺も誰のことを言っているのかわからない。
「そういえばこのキャンパスなくなるらしいな」
早川が話を変えた。
「え!?マジで?」
「うん。ここ借地だから2年後には返さなきゃなんないんだって」
「2年ってすぐじゃん!」
「留年したら新キャンパス行けるな!」
といつものノリで話していると、上の空の浅井が目に入る。
「おい、聞いてんのか?」
早川がおどけると
「ん?うん。じゃあギリ俺らは卒業までこのキャンパスなんだな」
無表情の浅井が答えた。
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午後の講義中ノートを開くと“松原”という文字が目に入った。
確かに俺の字だけど書いた記憶がない。
昼休みに浅井が言ってた名前だ。


























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