だがその瞬間、影が広がり、
二人の幸福が冷えきっていく。
笑顔が消え、不安が生まれ、
理由もなく距離ができる。
そしてその瞬間、
男の胸の“快楽の痛み”も霧のように溶けて消えた。
気持ちよかったはずの痛みが消える。
それが……
狂うほど辛い。
「ああああ……やめろ……壊すな……
俺の……俺の楽しみを奪うな……
俺は……痛みが欲しいだけなんだ……!」
けれど同時に、
自分のせいで快楽が失われていくその苦しみすら、
彼にはたまらなく甘かった。
「俺の手で俺の快感を殺すなんて……
そんなの……気持ちよすぎるだろ……」
矛盾がねじれ、
欲望がねじれ、
自分で自分の首を絞めるような感覚。
幸せを見て快楽を得る。
快楽を得た瞬間、幸せを壊してしまう。
壊れたことが苦しい。
その苦しみすら快感になる。
彼は出口のない円環の中で、
ひとりで絶頂し続けていた。
十二月二十五日の深夜、
街を歩く恋人は、
なぜか皆、少し疲れたような顔をしていた。
理由は分からない。
ただ、幸福が“弱い”。
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