夏の恒例行事で、僕の部屋に男4人が集まり百物語をしていたときのこと。
その中で友人──ここではAとする──が話してくれた怪談だ。
Aはここ最近何度も見る同じ夢に悩まされていたらしい。
夢の中では決まって自分の部屋から始まり、玄関の方から何か呼び掛けるような声が聞こえるそうだ。
声の正体を突き止めようと部屋を出て玄関を目指す。
部屋からまっすぐ伸びる廊下を進み玄関にたどり着くと、声がはっきり聞こえた。
「百合子さーん。ここかい?」
年配の男の声。
しかし“百合子”という名前はA本人の名前ではない。
それどころか身近にもそのような名前の人物はいなかったのでAは自分とは関係ないことだと決めて部屋に戻ろうとした。
すると、
「百合子さーん。ここかい?」
声の主が近づいてきている。
(この部屋に来るな)
Aはそう心の中で思ってしまった。
夢の中では思ったことがそのまま現実になる。
「百合子さーん。ここかい?」
ついに部屋の前から声が掛かる。
Aが恐る恐る覗き穴から廊下を見ようとすると、
「あー。ここにおったんか。」
この言葉を合図にAは目が覚めるそうだ。
Aは直近1か月でこの夢を全て同じ内容で7回は見ているらしい。
だが、昨日の夢では変化が起きた。
昨夜の夢でも同じように玄関に立つと、あの声が聞こえる。
「百合子さーん。ここかい?」
少しずつ声は大きくなっていく。
「百合子さーん。ここかい?」
部屋を一つひとつ確認するようにこちらに。
「百合子さーん。ここかい?」





















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