「……え?」
男は思わず息を止めた。
影はカップルの幸福を“吸っている”ように見えた。
吸われた幸福は、どこへ行くのか。
すぐに気づいた。
胸の痛みが、消えたのだ。
さっきまで彼を気持ちよく満たしていた“幸福を見る痛さ”が、
何も感じなくなるほど静かになっていた。
「まって……やめて……」
自分の声が震える。
幸福が壊れると、
彼が得ていた痛みが消えてしまう。
痛みがないと、
生きている実感すら消える。
世界が彼を殴ってくれないと――
彼は“空っぽ”になる。
しかし影は、彼の知らぬ間に、
その能力が、
**“自分自身の中から湧いている”**ことを知らせていた。
幸福を見るだけで、
他人の幸福が壊れてしまう。
つまり彼は、
「幸せを見て痛むことで快感を得るくせに、
幸せを見た瞬間、その幸せを自動的に壊してしまう」
という、最悪の矛盾を背負わされた。
それから男のクリスマスは地獄になった。
カップルを見れば、胸が焼ける。
痛い。
気持ちいい。
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