その言葉を聞き、Iは顔を両手で覆い、泣き崩れた。
「私……あの子に恨まれてたんだね」
私は首を振った。
「違うよ。あいつはお前が好きだった。スマホを持って行ったのも、かまってほしかったからだよ、きっと……」
Iは子供のようにえずきながら、顔を伏せたまま、小さく震えていた。
息子は生前も、Iとのコミュニケーションを求めていた。言葉ではなく、Iのものを持ってきては「あー、あー」と言って注目を引こうとしていた。それは、彼なりの愛情表現だったのだ。
吹き抜ける風が木々を揺らし、どこか遠くで風鈴が鳴ったような気がした。
私はしばらく無言のまま、息子の墓の前で立ち尽くした。そこには何も語らぬ小さな石と、風に揺れる花束だけがあった。
だが私の目には、その墓の前にちょこんと座る、小さな背中が見えた気がした。
振り返ると、Iも同じ方向を、唖然としたように見ていた。何も言わず、涙を頬に伝わせながら。
あいつは……Tはきっと今も、あの日と同じように、あの頃の笑顔のまま、俺たちを見ていたんだと思う。
Dさんの語りはそこで終わった。
グラスの中の氷はすでに溶け、淡い琥珀色の液体だけが残っていた。
彼は最後の一口を飲み干し、静かに微笑んだ。
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