サイレン
投稿者:とくのしん (65)
「頼むから一緒に行ってくれよ」
木村は高校時代からの親友沢田にとある廃墟巡りに誘われていた。木村自身、廃墟には全く興味がない。一方沢田は、廃墟が醸し出すノスタルジックな雰囲気に酔いしれ、そこで生活していた人々の想いに馳せたり朽ちた建物を見ながら当時の日常に想像を掻き立てることが至福の時だという。
今回、沢田が木村を強く誘ったのには理由があった。その目当ての廃墟というのが、全国でも屈指の炭鉱町跡であると同時に、心霊スポットとしても有名な場所なのである。そういった場所は幾度となく単独で踏破した経験を持つ沢田であるが、今回の炭鉱町跡が広大なことや、ネットで目にした心霊体験談に怖気づいてしまったという。しかし、その恐怖心よりも廃墟への想いが勝り、それは何人たりとも止めることはできないと沢田は熱く語る。
木村はどんな体験談を目にしたのか尋ねた。沢田が口にしたのは、誰もいないのに足音が聞こえたとか、話し声がしたとか、作業服姿の男を見たとかありきたりなものばかり。
「その程度だったら今までの廃墟巡りでも何度か経験したって言ってたじゃん」
「まぁね。その程度だったら俺も怖くないさ。そもそも幽霊なんて信じていないし」
「ならどうして一人で行かないんだよ」
「そこがさ、かなり広いって話なんだよね」
「なんだ。迷子になるのが怖いのか(笑)」
「そんなんじゃないよ、最後まで聞け。ただ広いだけとかありきたりな心霊体験だけなら俺一人で行くさ。それでもお前を誘うのはさ・・・」
沢田の真剣な眼差しに、木村は固唾を飲んで次の言葉を待つ。
「・・・そこに行った人間がかなりの確率で行方不明になるらしいんだよ」
雰囲気を多少持たせながら、沢田はその理由を語った。
「行方不明ねぇw嘘松っぽいけどそれは本当なんですか?」
木村は茶化すように沢田に問いかける。
「調べてみると実際に行方不明者が出ているんだって」
そういって沢田はいくつかのネットニュースを木村に見せた。地元新聞社が報じる行方不明者の記事、それは全て〇〇炭鉱町跡付近で発生していた。それらいくつかの記事を見て、
茶化していた木村も思わず黙る。
「だからさ、なんかあったときのためにお前に来て欲しいんだよ」
「なんかあったらって・・・共倒れになったらどうするんだよ」
「そんときはそんときだろ」
「あのな、いくら付き合いが長いからってお前と一緒に死ぬのはごめんだぜ」
「頼む木村!一泊二日の旅費は持つ!この旅館を予約しようと思うんだけどどうよ?」
沢田が見せたじゃらんのページには一泊2万の旅館が掲載されていた。
「・・・飲み放題プランもつくよな?」
「さすがに夜中に探索は行かない。探索は昼間から夕方にかけてのみ。だから夜は飲み放題でどんちゃん騒ぎしようぜ」
「・・・よし!それなら行く!」
他の投稿者には悪いですけど別格ですね。
安定感があって毎回ハズレがない。
心霊スポット系の怪談の中でも、ダントツに怖く、切なく、考えさせられる内容でした。この方の作品は、安定していてハズレがないですね。ノスタルジックな情景描写も、かつての繁栄を知るもののひとりとして、胸迫るものがありました。
凄い。
これを元にショートムービー作って欲しいレベル
木村さんを伝聞調になった辺りから、何となく展開が読めましたが、物悲しく切ない感じがよかったです。炭鉱の町というところがいいですね。長崎出身の私、軍艦島は小さい頃生きました。
これは凄い。数ある投稿の中で群を抜いている。情景が目に浮かぶ。自分も物語の中に一緒にいるような、とても不思議な感じ。とにかく素晴らしい。ありがとうございました。
もうーーー、作品としての出来が素晴らしいです タクシーが現れた時点で痺れた そしてタクシー運転手のセリフがもう 予想通りながらまたまたしびれます! そのセリフの中身がホテルキャルフォルニア
たくさんのコメントと投票ありがとうございました。
準大賞受賞することができて嬉しい限りです。
お気に入りのYouTubeチャンネルで動画にしていただいて、何度も聞き返してしまいました(笑)
動画にしてくれた編集者の方にも感謝です!
鳥肌がたった
何よりもすごかった。表現が天才
大傑作
最高に面白かったです。怖さと気味の悪さと、寂しさが絶妙なバランスでした!大好きな作品になりました!