窓の外は、墨を垂らしたような闇。駅の明かりすら見えない。まるで電車ごと“異界”に取り込まれたようだった。
「ななつめのえき〜、ご乗車ありがとうございました」
アナウンスの声が変わっていた。機械的なものではなく、生身の人間のような、どこか女のような、老人のような、不気味な声。
その瞬間、照明がフッと消えた。
全身に鳥肌が立つ。暗闇の中で、何かが這う音が聞こえる。無数の足音が車内を包む。
そして、目の前に、顔のない乗客が立っていた。
「一緒に……降りましょう」
その手が、僕の腕を掴んだ瞬間──
意識が飛んだ。
目を覚ますと、自宅のベッドの上だった。
夢だったのか?
汗でTシャツがびっしょりだった。スマホを手に取ると、ロック画面に一件の通知。
【ご乗車ありがとうございました。】
え? SNSの通知? そう思って通知をタップしたが、画面は何も開かず、通知は消えた。
履歴を見ても、記録は残っていなかった。
夢……?
そう思いたかった。
でも、その日を境に、何かが少しずつ狂い始めた。
翌朝、会社に出社すると、妙にざわついた空気を感じた。
「加納、連絡つかないんだって」
加納──昨夜、僕と同じ電車に乗っていた同期。家に帰っておらず、スマホも不通。家族が警察に捜索願を出したという。
背中に冷たい汗が流れた。あの“ななつめの駅”と関係があるのでは……。でも、そんなことを言えるはずもない。
昼休み、そっと加納のデスクを見に行くと、上に白無地の封筒が置かれていた。中には、切符のような紙が一枚。
乗車駅の欄には何も書かれておらず、行き先だけがこう印字されていた。
『七人目』
僕は手が震えるのを必死でこらえた。
数日が経ち、平穏を装いながらも、心は限界に近づいていた。
あれが夢だとしても、あまりに生々しく、現実としか思えなかった。
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