火男【ひょっとこ】
投稿者:ねこじろう (147)
月の光にぼんやり照らされたその姿を改めて見た途端、ぞくりと背中が粟立った。
水玉模様の手拭いを頭から被った異形の男が紺色の着物の裾を捲り、立っていた。
大きく開いた目をギョロギョロさせて尖った口を奇妙にねじ曲げており、いったい笑っているのか怒っているのか、分からない。
男はおもむろに中腰になると、笛や太鼓の音色に合わせて器用に手足を動かしながら踊りだす。
その踊りはどこか滑稽で楽しげで、しばらく見てると、どういうわけか私の手足も音色に合わせて勝手に動き始めた。
月明かりに照らされた公園の真ん中で、ひょっとこと私は向かい合い、ただひたすら踊り続けていた。
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どれくらい経った頃だろうか、気が付いたら私の周りは真っ暗になっていた。
いつの間にか、ひょっとこもいない。
─え?、、、ここはどこなの?
ようやく自由になった手で汗を拭い辺りを見渡してみると、そこは洞窟の中の広場のようなところだ。
ようやく自らの置かれた状況が理解出来た途端、心臓が激しく脈打ちだし、私は狂ったように何度も叫んだ。
だが聞こえてくるのは、こだまする自分の声だけだ。
叫び疲れた私は、ガックリとその場に膝まずく。
広場の中央に目をやると、カズヤくんが言っていたような、肩を寄せ合いぐったりした子供たちや女の人たち、恐ろしい骸らしきものもぼんやり見える。
しばらく呆然としながらその場に座っていたが、ふと左手に目をやると、岩壁に小さな窓のようなものが並んでいるのに気付いた。
そこから、うっすらと明かりが漏れている。
私は四つん這いになり、それらをいくつか覗きこんだ。
その中の一つにどこか見覚えある場所があった。
そこはどこかの部屋。
小さな窓があり、その際には安物のパイプベッド。
それを見た途端、私は思わず声をだした。
「え、ここ、私の部屋じゃないの?
しかもこの位置からすると、私がいるのはちょうどヘアードレッサーのある辺りじゃない」
つまりどういうわけか私は、ヘアードレッサーの鏡の向こうから部屋を覗きこんでいることになる。
早速のコメントありがとうございます。
━ねこじろう