拝啓 土の下より
投稿者:綿貫 一 (31)
長編
2024/01/10
21:06
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「冬虫夏草(とうちゅうかそう)」という植物がある。
写真などを見ると、ひょろりとした細長い茸だが、その根元には、蛾や蝉の幼虫が付いている。
冬虫夏草とは、生きた蛾や蝉の幼虫に寄生する茸の一種だ。
幼虫から養分を吸い上げて死に至らしめ、子実態を結ぶ。
昔は、冬の間を虫の姿で過ごし、夏になると草になると信じられたことから、この名が付いたものらしい。
漢方の生薬などに用いられる。
あの日、お姉ちゃんの亡骸から生えていたのは、茸だった。
人の亡骸から生える茸が、本に載っていた冬虫夏草と同じものなのかどうかはわからないが、冬に何者かに誘拐され、土の中に埋められたお姉ちゃんは、夏に茸となって、私の前に現れた。
森の中で私が追いかけた白いものや、お姉ちゃんの遺体を掘り当てたときに聞こえた『声』など、あの日のことにははっきりしないことが多い。
ただ、私は度々あの森でのことを夢に見て、そして、その度にこう思うのだ。
――ああ、
――あの美しい茸を、もう一度見てみたい。
〈了〉
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最後の余韻が怖かった
実話なのか、夏の田舎での早朝の森の様子が手に取るよに分かり怖さを倍増させていてあっぱれです。
ひきこまれました。
うむ🫤
場面の移り変わりや、時間帯や季節の描写が印象的。最後の2行は、主人公が既に闇落ちしていることを示唆しているのでしょうか。