あの夏への扉
投稿者:綿貫 一 (31)
長編
2024/06/05
22:43
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扉を開けると、涼やかな空気が、火照った身体から一瞬で熱を奪っていく。
あの夏の日を思い出す。
見上げれば、巨大な入道雲が浮かんだ真っ青な空。
視線を下げれば、万緑に覆われた山々。
どこまでも広がる水田。
懐かしい田舎町。
草と、土と、汗の匂い。
耳に残る蝉しぐれ。
口の中によみがえる、ラムネアイスの爽やかな甘さ。
つないだ手と手。
僕と彼女。
そして、あの夏は――、
§
§
§
田舎の祖母が亡くなった。
東京暮らしの私は、東北新幹線こまちに乗り、秋田へと向かった。
祖母の住んでいた町は、秋田駅からさらに電車とバスを乗り継いで、二時間ほどの山奥にある。
昼過ぎに東京を発ち、着いた頃には夏の陽も沈みかけていた。
遠く近く、ひぐらしが鳴いている。
夕焼けに染まる景色。
ここはさして変わっていない。
あの日から。
「洋(よう)ちゃん、悪かったねえ。仕事、忙しいんでしょ? わざわざ、こっちまで来てもらってねえ」
伯母――私の母親の姉は、テーブルの上に麦茶の入ったグラスを置きながら云った。
丸顔のこの伯母は、子供の頃に見た祖母によく似ていた。
「いいんです、婆ちゃんにはかわいがってもらいましたから。
それよりすみませんでした。ちょうど海外に出張中で、葬式に出られなくて。
伯母さんは、その……、さみしくないですか?」
伯母はころころと笑う。
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何となくこれを思ったw