アレなに？

私は、もうじき3歳になる娘のマナを連れて、近所の公園に遊びに出かけた。
公園に着くと、普段は閑散としている広場に、ちょっとした人だかりができていた。

「ママ、アレはなぁに――？」

娘が、私の服の袖を引っ張って尋ねてくる。
彼女は近頃、「なぜなに魔」だ。

見たり聞いたりしたことで、わからないものがあると、「あれはなに？　これはなぜ？」と、すぐに私に訊いてくる。
その言葉に、私は毎度、少しだけ緊張してしまう。
ときにそれは、答えるのが難しい問いかけだったりするからだ。

「どうして、お魚は海に住んでいるの？」

「どうして、おばあちゃんはしわしわなの？」

「どうして、マナちゃんは夜、眠くなるの？」

どう答えたものかと私が頭を悩ませていると、旦那が横から助け舟を出してくれることがある。
ただ、この助け舟、時に泥船だったり、難破船だったりするから注意が必要だ。

「塩鮭なんかは、食べるとしょっぱいだろう？
お魚はね、みんな、塩味になるために海に住んでいるんだよ」

「お風呂に入ってると、指がしわしわになるだろう？
おばあちゃんはね、ずーっとお風呂に入ってたから、全身しわしわになって、戻らなくなっちゃったんだ」

「ケータイと同じで、充電が切れるからさ。
マナが夜眠っている時、パパたちが、マナのお尻に電源コードが刺してるのに気づかなかったかい？」

そんな時、みぞおちにパンチを入れて旦那を黙らせてから、私は娘の質問に答える。

だが、私が懸命に考えた答えより、旦那の適当な答えの方が、娘にとっては「しっくりくる」らしく、彼女中に妙な知識が蓄積されていく。
娘も将来、旦那のようにひねくれた人間になってしまうのだろうか。
今から不安である。

「ねぇねぇママ、アレはなぁに？」

娘が袖を強く引く。
少しぼんやりしていたらしい。

「そうだねえ、なんだろうねぇ」

実際、この公園であんな人だかりを見ることなど、初めてだった。
私にもわからない。
私たちは真相を探るべく、近寄ってみることにした。