オーイェー

「……これで話はおしまい。ね？あまり怖くないでしょ？でも私にとっては神秘的で大切な幼少期の思い出なんですよ。…今もいるのかなぁ、オーイェー。私はもう子供じゃないから声は聞こえくなってるかも。」

懐かしさを噛み締めるように彼女は目を細めた。

現在24歳の佐々木さんは社会人として多忙な毎日を送っている。
昔住んでたそのアパートの正確な住所や建物名は分からないが某県のF市内だと教えてもらい、それを最後に彼女と別れた。

この話を聞いた後、俺は”オーイェー”の正体が一体何なのか好奇心が疼いた。
心霊現象というのは大抵の場合、そこで人が亡くなったから起きるものだ。
何か手掛かりはないかと試しに
『F市　アパート　過去　事件』
という大雑把なワードでググッてみた。　
あまり期待はせず検索結果にそれらしいのがないか探してみると、今から30年以上前に起きたある事件の記事を見つけ、まさかと思いそのサイトに目を通す。

　　　　　　『F市児童虐待死事件』
“F市内のアパートの一室で小学5年生の男子児童の遺体が発見された。
死因は内臓破裂による出血性ショックとみられ捜査員の発見時、児童は部屋に監禁されている状態で全身にアザが数十ヶ所あった。
まともに食事も与えられず体重は20kg程度しかなく、更に会話が出来ないよう舌を切り取られていた。”

これが記事の概要であるが気になる記述がある。

“舌　を　切　り　取　ら　れ　て　い　た”

否応なく、俺は嫌な想像を働かせてしまう。

もし、佐々木さんが住んでいたアパートの一室がかつての虐待の現場だったとしたら？
そしてあの声の主はこの虐待死した舌のない児童の霊なら？

“おーいぇおー　おーいぇー　おーいぇー”

この子に舌があれば。

おそらく、その声は

『殺してよおおおおおおおおおおおおお！！！殺してええええええええええ！！！殺してえええええええええええええ！！！』

……と、強く訴えていたのではないだろうか？

自分が死んだ事に気付かず、尚も苦しみ続ける地縛霊。
それが”オーイェー”だとしたら。

しかし言うまでもなく、これは俺の勝手な憶測だ。
佐々木さんが昔住んでいたアパートとこの児童虐待の現場が同じだったなんて偶然は、いくらなんでも話が出来すぎている。
アパートなんて他に幾らでもあるのだ。
百歩譲って仮に同じアパートだとしても、亡くなった児童と”オーイェー”の間に因果関係は何も無いという可能性だってある。