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心霊

Mineさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

手首を切る女
長編 2025/03/25 00:14 1,587view
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誰にも干渉されない生活に憧れていた。
早く自立したかった。
だから広瀬さんは大学進学を機に反対する両親を説得しアパートで一人暮らしを始めた。
選んだ物件は築14年の2階建1Kで、外観はそれなりに経年を感じさせるもののこれまで内見したどの部屋より内装が比較的綺麗であり、家賃も特段格安という訳ではないが駅やスーパーへの距離を考えれば申し分なかった。
通学時間片道1時間以内という外せない条件もクリアできる立地である。
そんなわけで広瀬さんはそのアパートへ入居を決めたのだった。
引越し作業も滞りなく終えて夢にまで見た一人暮らし。
始めは慣れなかった家事も早い内にすっかり板に付き隣人トラブルとも無縁で授業、サークル活動、バイトと忙しいが充実した日々を送りまさに我が世の春を謳歌していた広瀬さんであったが、異変が起きたのは夏も過ぎ少し肌寒さを感じ始めた頃のこと。
その日はバイトが忙しく疲れていて帰宅するなり睡魔に襲われ、いつもより早めに就寝したが訳もなく深夜に目が覚めたという。
こんな真夜中に目を覚ますなんて珍しい。今は何時だろう?

時間を確認しようとするもどういう訳か身体に全く力が入らず更に声すら出すことができない。訳が分からず半ばパニックに陥った。

これは金縛りだ!

広瀬さんにとって生まれて初めての体験である。落ち着こうと何度か深呼吸をした時、女性のすすり泣きが聞こえるのに気付いた。
辛うじて動く首をそちらに向けるとキャミソール姿の女性がすぐ側に座っていた。
髪は長く俯いていて顔は見えないが年は自分とそう変わらない印象を受けたそうだ。

・・・悔しい・・・・・・悔しい・・・

女は涙混じりの声をあげながら自身の片方の手首を撫でるような動作を繰り返している。
…いや、違う。撫でているのではない。
カッターの様な物で切りつけているんだ。
流れ出た血が幾筋も女の白い腕を伝い、肘から滴り落ちていく。

え? え? 何?
あまりの唐突さに恐怖心より混乱が先に来て暫くその光景を凝視していると、ふいに女が顔を上げた。

顔中がズタズタに切り刻まれていたという。

そこで広瀬さんの意識は途切れ、目を覚ました時は朝日が差し込んでいた。
身体は問題なく動くし部屋にはあの女がいた痕跡は全くない。もちろん家中の施錠も問題なかった。
ああ良かった。趣味の悪い夢だったんだ。
そうだ、幽霊なんているわけない。
広瀬さんはそう思い込み実際数日間はあの女も現れず安心したのも束の間、また深夜に目が覚めると身体の自由が奪われており、横にはあの女がいた。

手首をひたすら切りながら”悔しい、悔しい”という悲痛な涙声。
肘からポタポタと床に滴り落ちる血の音。

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