寂しい人形
投稿者:take (96)
私が言うと、先輩はちょっと意外そうな顔になります。
「へえ、そんなふうに思うんだ」
「え? だって、最近つくられた小道具ですし……とくになんの謂れもないし」
「それって『見えない人』の考え方だよ、でもきみや私は違うでしょー」
先輩はクスクスと、耳に心地よい転がるような笑い声を立てました。
「何百年前の人形だろうと、魂が宿るとは限らないし、逆に昨日作られた人形にナニかが入ってるってことも、じゅうぶんあるでしょ。そういう存在を当たり前に見てきたきみならわかるんじゃない?」
「それじゃやっぱり?」
「又聞きの又聞きの話だからはっきりしたことは言えないけどね。それまで大事にされてきたのに、撮影が終わって使われなくなって、急に放ったらかしにされて寂しがってるんじゃないかな」
「……そう思いますか?」
理香先輩は口角をキュッと上げて笑うと、
「きみや私が見ているのはそういう世界でしょ」
そう言いながら、私の肩を、ポン、と叩きました。
姉にもう一度、その友人に詳しく話を聞いてくるように言いました。
すると、撮影中は、その人形に『花子ちゃん』と名前をつけて、今日はどこどこで撮影だよ、とか今日はご苦労さん、おやすみ、とか声をかけていたということでした。
急に相手にされなくなったから寂しがってるのかもしれない、段ボール箱から出して、毎日声でもかけてあげればいい、それでもダメならお寺に供養をお願いするしかない、と伝えました。
その人形に目や鼻や口をつけて可愛らしくリメイクして、部室の隅に置き、
「おはよう」「おやすみ」「また明日ね」と声をかけるようにすると、
ピタリと怪異は止みました。
それからは映画研究会のマスコットとして受け継いでいくことにしたそうです。
「みんな助かったって喜んでたよ、ありがとね。いやー、でも、ほんとに不思議なことってあるもんだね」
姉は報酬のつもりか、コンビニで大量に買ってきたお菓子を、私に差し出しながら言いました。
私がその袋を持って自室に戻ろうとした時、妹が目ざとく見つけて寄ってきました。
「なによ、結局先輩に相談したの?」
「まあな」
「アドバイスしたのは私だから、指導料もらってくね」
妹は袋に手を突っ込んで結構な量のお菓子を掴み取りました。
「おい、取りすぎだろ」
抗議する私にも素知らぬ顔で、妹はさっさと部屋に入って行きます。
それを見送りながら、理香先輩に何かお礼しなきゃなあ、と思ったのでした。
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