欄間の向こうから
投稿者:take (96)
友人のAから聞いた話です。
小学生の頃、夏休みにはいつも父方の祖父母の家に帰省していました。
そのとき、いつもあてがわれる部屋は、仏間の隣室でした。
仏間には当然ながら、仏壇が置いてあり、長押には曾祖父・曾祖母など、いわゆる『ご先祖様』の写真が飾られてありました。
「この人がお爺ちゃんのお爺ちゃんだよ」
「この人がお爺ちゃんのお母さんで……」
と、聞かされましたが、Aにとっては面識のない『知らない人』の写真で、みんないかめしい顔で写っていて、古いモノクロ写真特有の気味悪さがありました。
幼かったAは来たときと帰るときに、お義理のように仏壇に手を合わせるとき以外、仏間には立ち入りませんでした。
写真のご先祖様がみんな睨んでいるように見えたし、あの場に写真を飾られることが『死の象徴』として、よくわからない恐怖を感じていたのです。
小学三年生の夏休み、いつものように帰省したその夜のこと。
彼はふと目を覚ましました。父母や弟はぐっすりと眠っています。
隣の仏間からなんとなく異様な雰囲気を感じましたが、襖は閉められてあるので、仏壇などが直接目に入ることはありません。
トイレに立ち、戻ってきたとき、ふと欄間に視線が行きました。
欄間とは、天井と鴨居の間に設けられている開口部です。
格子や障子がはめ込まれていることが多いですが、祖父母の家の欄間には、龍と雲が彫り込まれた立派な透かし彫りでした。
つまり、隣の仏間がその間から見えるわけです。
その透かし彫りの向こうから、誰かがこちらをのぞいていたのです。
それは真っ黒な人影で、目があると思われる場所は白く光っているように見えました。
Aは金縛りにあったように動けず、目を逸らしたくても逸らせず、その何者かと睨み合う格好になりました。
数秒睨み合ったあと、それはニヤッと笑ったそうです。
真っ黒で表情などわからないはずですが、彼には『笑った』ように感じられたのです。
その瞬間、体が動くようになり、慌てて布団に潜り込んだそうです。
翌日、父母に話しましたが『夢でも見たんだろう』と、取り合ってくれませんし、
祖父は『ご先祖様がAの顔を見に来たんだろう』と笑っていました。
もしかしたら飾ってある写真が見えていたんじゃないかとも言われましたが、欄間に顔を近づけて覗き込んだのならともかく、角度的に隣の部屋の写真が見えるはずがありません。
「曾爺ちゃんや曾婆ちゃんたちが子孫の、しかもまだ小さな子供を脅かしたりするもんかね?」
Aはあれがご先祖様なら配慮が足りないだろうと、苦笑していました。
思わず自分も支度の和室の欄間を見たわ…
遺影に声をかけてはいけない、と教えられてのを思い出しました。うちだけかもしれませんが。。。