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意味怖(意味がわかると怖い話)

件の首さんによる意味怖(意味がわかると怖い話)にまつわる怖い話の投稿です

幻聴が聞こえたら
長編 2022/11/04 16:24 4,685view
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 1ヶ月後、薬がなくなり、また受診した。
「そうか……じゃあ、別の薬にしてみようか」
 熱心に考えてくれる先生に、私は深い安心を感じていた。
 先生がみてくれるから大丈夫。
 話すのは診察の僅かな時間だけど、そう確信するようになった。

 幻聴は続いている。
 でも、私は先生に会う時間が好きになっていた。
 むしろ、このまま声が聞こえ続けていればいい、そう思うようになっていた。

 3ヶ月が過ぎ、夏休みを挟んで、学校がまた始まった。
 それに合わせて席替えがあった。
 と。

 あの声が聞こえなかった。
「ちょっと、何かけてんの!?」
 前の方の席から声がした。
「音漏れしてるんだけど?」
 文句を言われていたのは、前まで私の前の席にいた生徒だった。彼がスマホを操作する。強弱を間違えて、一瞬クラス中に、ドラムとギターのやかましい音楽が流れた。
 聞き慣れた、音だった。

 「症状」は、ただの勘違い。
 良かった、とは思えなかった。
 先生に会う理由がなくなるし、ふざけた勘違いで受診した事を軽蔑される。
 私は必死に「本当に病気になる方法」を探した。
 アルコールやドラッグが引き金になると聞いたが、それは流石に手に入らない。

 強いストレスというのもあったが、今よりも強いストレスは考え難い。
 そんな中、鏡の自分に「お前は誰だ」と話しかける、という方法を見つけた。これなら続けられそうだ。

 その日から、私は鏡に向かって話しかけるようになった。
 ヒマさえあれば、鏡に向かって「お前は誰だ」と問いかけ続けた。
 薬は飲まずに捨てた。治ってしまっては努力が水の泡だ。
 次の受診日までに、僅かでも症状が出ていなければ。
 寝る前も、ふと目を覚ました時も、朝起きても、授業の合間にも、むしろ授業中にも、鏡に向かい話しかけ続けた。
 そのうちに、自分が言っているのか、鏡の向こうの自分が言っているのか、自分はオリジナルなのか、鏡像に過ぎないのか曖昧になっていった。
 そして。
「お前は誰だ」
『お前こそ誰だ』

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