夜の病院
投稿者:チョコラブ (3)
これは、私が体験した本当のお話です。
夢だったのか、現実だったのか――いまだに分かりません。ただ、あの感覚はあまりにも生々しく、忘れることができないのです。
あの日、私は奇妙な感覚で目を覚ました。見渡すと、そこは病院だった。だが、何かがおかしい。壁の色は薄暗く黄ばんでいて、蛍光灯は点滅し、どこからか微かに機械の軋む音が響いている。受付には誰もおらず、ロビーは深い静寂に包まれていた。
静まり返ったその空間に、私は妙な居心地の悪さを覚えた。ふと、奥の自動ドアに目が留まった。そこから抜け出せば、この異様な空間から解放されるような気がした。私は足を踏み出そうとした。
――その瞬間だった。
「そっちへ行ったら、怖いことが起きるわよ。」
静寂を切り裂くように、女の声が背後から響いた。
振り向くと、そこには一人の看護師が立っていた。
真っ白な制服を着ているが、どこか古びていて、血のような赤い染みが袖口に滲んでいた。顔はぼんやりとしか見えないのに、なぜか冷たい視線が私を突き刺してくる。
「…どういうことですか?」
声をかけたものの、看護師はただ微かに笑みを浮かべただけだった。
その場に釘付けになっていると、ふと受付の電光掲示板が目に入った。
そこには、ゆっくりと流れる文字が浮かび上がっていた。
「こんばんは、渡邉隆志さん。あなたは飲酒運転で――」
血の気が引いた。そんな事実はない。だが、掲示板は淡々と文字を続けた。
さらに見知らぬ名前が次々と表示されていく。
「こんばんは、○○さん。あなたは●●で――」
意味が分からない。周囲を見渡すと、いつの間にかたくさんの人がロビーに座っていた。
誰もが無言で、顔はどこか生気がなく、虚ろな目で掲示板を見つめている。
私はその異様な光景に息を呑んだ。
突然、無言だった人々の中から、病院職員らしき者たちが現れた。
無表情の彼らは、一人ひとりの前に立ち、淡々と言った。
「あなたは、こちらへ。」
呼ばれた者は抵抗もせず、立ち上がり、どこかへ連れて行かれる。
何人も、何人も、静かに消えていく。
私はその日、名前を呼ばれなかった。だが、安堵よりも、見えない不安が膨れ上がった。
夜の病院で一晩を過ごし、再び同じ部屋に案内されると、昨日よりも人数が減っていた。
そして、ついにその時が来た。
「渡邉隆志さん、こちらです。」
その声は冷たく、無機質だった。
私は無言で立ち上がり、職員の後ろを歩いた。廊下は異様に長く、壁に掛けられた古びた絵画や時計が、どれも狂っているかのようだった。
途中、扉の隙間から断末魔の悲鳴が漏れ聞こえた。
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