幻聴が聞こえたら
投稿者:件の首 (54)
長編
2022/11/04
16:24
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その日以来、声が聞こえ始めた。
「お前は誰だ」という言葉が響き続ける。
これで、先生に治療して貰える。
先生に優しく診察を受けるイメージ。
問診が終わり、先生は最初にしてくれたように頭を撫でて――。
『お前は誰だ』
今私は、先生の紹介で、大学病院に入院している。
声は聞こえ続けている。
お前は誰だ、という問いかけの他に、殺せ、とか自殺しろ、とか、馬鹿とか、様々な、どれもが聞くだけで憂鬱になるような言葉が繰り返される。
一体、何で病気になろうなんて思ったんだろう。
病気のせいで頭がぼんやりして、倦怠感がなくならない。
ああ、手首の傷がまた増えている。
何をやったんだっけ。
いや、鏡の中の私がやったんだっけ。
あれ? 中? 外あれ?
よく分からない。
鏡を見る。
全て塗りつぶされていた。
何でだろう。
出口がないじゃないか。
あ。
この鏡はひときわ大きい。壁一面が姿見のようだ。
ここからなら。
元の世界に戻れる。
『――県立○○総合病院で、入院中の10代の女性が、窓から飛び降り、全身を強く打って死亡した。同院では、窓に転落防止ストッパーを設置していたが、ガラスを破って転落したという。警察は現在現場検証中で――』(20××年10月23日版 地方紙社会面)
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