幻聴が聞こえたら
投稿者:件の首 (54)
「――よく来てくれたね、偉いよ」
メンタルクリニックの医師はカサイという、まだ若い男の先生だった。
「幻聴という事だったね」
「はい」
「今日で全部話そうとしてくれなくて良いよ。辛くなったら黙って構わない。無理して話してくれるより、次にまた来てくれる方がずっと僕らは嬉しいんだ」
「分かりました」
イケメンという程でもないけど、優しそうでゆっくりした話し方をする。
「お母さんは、一緒にいた方が良い?」
傍らに座る母に、先生はちらりと視線を向ける。
「はい。その方が話が早いです」
「じゃあ、お母さんも一緒に聞いて下さい」
「分かりました」
「ただ、お母さんは何も発言しないで下さい。何か説明を補足しようとか思わないで良いです」
「そうですか」
母は少し不満げだったが、何かを言い返す事はなかった。
「じゃあ、その幻聴について、話して貰えるかな」
「えっと、それは……」
「思った通りの事で良いし、何かあれば僕から質問するよ。勿論、答えたくなかったら黙って貰って良い」
「分かりました。えっと、昨日の授業中、あの、4時間目だったんですけど――」
私は症状について、包み隠さず伝えた。
「――ふうむ」
先生は少し考えてから言った。
「症状が限定的だね。別のものの可能性はあるけど、まず、弱い薬を試してみようか」
受診が終わり、家に帰って来た。
学校は休みにしたので、午後いっぱいやりかけだったゲームをやったり動画を観たりしてぼんやり過ごした。
全然幻聴は聞こえず、薬のお陰か気分が随分落ち着いている気もした。
それから眠気もかなり強く出た。
大丈夫そうだ。
そう思って、翌日学校に行った。
けれど。
『殺せ……心臓を……捧げ……』
声はまた聞こえ始めた。
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