行方不明になった友人の話
投稿者:七色 (4)
俺は背中から視線を感じるせいか恐る恐る振り返る。
闇に支配された壁際に向けてライトを翳せば、そこには壁の七割を占める大きな押入れがあった。
光を下から上になぞるようにして段階的に上げていけば、押し入れの上に天袋がある事に気付く。
何故かその天袋から視線を外す事が出来ずにいた。
悪意を塗り固めた圧を飛ばされている様な、蛇に睨まれた蛙の気分に近い。
とにかくここに留まるのは色んな意味でヤバい。
そう思った。
しかし、恐怖に侵食されていく半面、一向にBから何のアクションもない事にも違和感を覚える。
この家はそこまで広くない筈だし、さっきの俺の声も届いている筈だ。
にも関わらず、やけに家の中は沈黙に包まれている。
「B……」
俺は今すぐBを呼んでこの恐怖の中から救い出してほしい気持ちでいっぱいだったが、どうしても喉が締め付けられる様な感じがして、大きな声が出せなかった。
「B……!」
殆ど呟くに等しい声量を上げ、俺は自分の情けなさに涙が出そうだった。
別に金縛りにあった訳でも、まして何かが俺を脅かしている訳でもないと言うのに、声が出ないばかりか体を動かす勇気させも出せない。
そうした膠着状態の中、天袋を睨んでいると、次第にその襖が「スス…」と引いていく事に気付き、思わず「ひっ」と上擦った声が出た。
確実に天袋の中に何かが潜んでいる。
それが分かっただけで既に両足がガクガクと震え始めていた。
ただ、もしかして俺に送られてきた動画やこの状況の全てがAの壮大な悪戯なのではと、半ば現実逃避する様に俺はAのドッキリ説を願っていた。
しかし、俺がこの場所に辿り着いたのはAが居なくなって一カ月以上経過してからであり、ラインの履歴を遡ってこの家の住所を割り出さなければ今ここにいる筈もない。
そんな成功率の低いドッキリの為にAが大学を休んでまで仕掛ける意味が無い事くらい、錯乱しかけている俺でも分かっている。
ただ、この恐怖に侵された今、そんな有り得ない可能性にも縋りたい一心だった。
そんな気持ちに支配されていたのだと思う。
「A。Aか?A何だろ?なあ」
震えた声で投げ掛けるが、反応は無い。
そればかりか、襖が六ミリ、七ミリ、八ミリ……と、じらすように徐々に開いていくので質が悪い。
そんな折、廊下の奥の方から「ドタタ!」と大きな物音が聞こえた。
音に連動する様に顔を向けるが、廊下に出るにはその天袋がある押し入れ側の前を突っ切る必要がある。
音の出所の方角はBが向かった家の奥だろうか。
もしかしてBの身にも何かが起きたのか。
今頃Bも何らかの恐怖に呑み込まれて俺に助けを求めているのだろうか。
読み応えあって面白かったです。
そういえば廃墟系のYouTuberで実際に行方不明になった人いませんでしたっけ…
心情の表現や状況を表す言葉が秀逸で、洒落怖ばりに鬼気迫る恐怖が凄く伝わりました。廃墟系YouTuberの方々にも周知させたいお話ですね。
長編なのに読んでいてしんどくない。細部の描写が凄いです。風化して粉まみれのボタンで感動しました、これは知らないと書けない…
その廃墟、第二の犠牲者が出ない事を願うばかりです。
恐ろしい体験でしたね。
気を強く持たないと。
その時の様子が鮮明に想像できます。細かい描写で分かりやすい。
絶叫しそうになった
めちゃくちゃ面白い
映像化してほしいくらい
凄く怖いかったです。この話は良かった。
いつか読んでる中でダントツ怖い。
ほんまにこえぇわこれ
ここ数年で1番怖かったかもしれない
文体に独特の書き癖があってときどき気にはなるが、内容は怖かった。
例のミイラ男がAなのかな?
とにかく読ませる怪談。今時パスワードや指紋認証ロックしていないAのガバガバさぶりはアレだが
怖すぎる…家の玄関が誰もいないのに明かりがついたことあるけれど
それ以上怖い…
今まで読んだ中で1番怖かったかも
若干最後の方に蛇足感じたけど面白かったわ。ありがとう。
低学歴ワイ、意味を知らない言葉複数あり
役所で名前が記録されていればおおよその事は分かるはずだよ、日本人なら
怖いねえ
大丈夫。ずっと見ているよ
マジで怖かった。傑作
あの頭部はAのものではないの?
Aと同じセリフを履いたよね。
そーやって呪いが繰り返される展開を想像した俺はこーゆーの身過ぎかね
Aは怪異から逃げ続けているから会えないのではないか
傑作。昼に出る怪異はガチ勢というが、まさにという感じ。
ビデオ動画、LINE、天袋に襖といった、正統ホラーの技巧にワクワクさせられつつ、2方面戦線からの合体という驚きもあって。
とても面白かった。
あかんめっちゃこわい
映像化してほしい
怖いです。漏れそう