寂しい人形

姉が大学生の時の話です。
彼女が通っていた大学に、映画研究会がありました。
ホラー映画を撮影することになり、小道具として、
子供の人形が必要になり、中に詰め物をし、布で作ったそうです。
おかっぱ頭を黒い毛糸でつくり、顔はのっぺらぼう、
服装は昔のおとぎ話に出てくる村の子供が着ているような着物で、
大きさは50〜60センチくらいだそうです。
チープな作りでしたが、かなり不気味だったと言います。

撮影も終わり、他の小道具とともに部室に置きっぱなしにしていたのですが、
そのうち、その映画に関わった人の周りに、その人形があらわれるようになった、というのです。

夜、おかしな気配に目覚めると金縛りになっていて、見てみると、
部屋の隅にその人形が立っている、天井の隅に浮かんでいる、胸の上に立っている。
夜更かししていて、視線を感じてそちらを見ると、玄関先にその人形が立っていた。
トイレや浴室を開けたら、人形がいた等々。
姉はその研究会には入っていませんでしたが、姉の友人が参加していて、
「こんなことが起きているんだよ、怖くって仕方がない」と話を聞き、私たちにこう言ったのです。

「あんたたちの力で、なんとかしてあげられない？」

私（当時高校生）と妹（当時中学生）は『霊感体質』で、幼少時から不思議な存在を見たり聞いたり感じたりしています。
私と妹にその『霊能力』で解決してくれというのです。
「なに言ってんだよ、無理だって、そんなの」

「やだよ、そんなの、怖いもん」
私と妹は全力で拒否しました。
見えたり感じたりするのと、除霊やお祓いができるのは全然べつの話です。

「そんなもんなの？　あんたたちでもやっぱり怖いものなの？」
姉はちょっと不満そうに頬を膨らませます。
姉にはまったく霊感はありません。
それ故に『この世のものでない存在と対峙した時の緊張感と恐怖感』が、いまひとつ理解できないのでしょう。
おっとりした性格も、それに拍車をかけているようです。

「で、その人形はいまどうなってるの？」
「段ボールに詰め込んで、部室に置きっぱらしいよ。みんな怖がって誰も触りたくないんだって」
「お寺にでも持ってって供養してもらえばいいじゃん」
妹が言うと、