上がる女
投稿者:件の首 (54)
僕はとある13階建てマンションの7階に住んでいる。
他の住人との付き合いはないが、よくエレベーターに乗り合わせるその女性については、顔を覚えていた。
彼女はいつも4階でエレベーターに乗り込む。つまりその階の住人だろう。
ほっそりとした優しげな美人だが、どことなく暗い表情が印象的だった。
ところが昨年の3月に入った頃、彼女の表情が急に明るくなった。
何か良いことでもあったのか、それとも悩み事が片付いたのか、一度も会話をした事がない相手に、わざわざ尋ねるようなものでもなかった。
それから数日。
僕は年度末の残業で、終電ギリギリに帰宅となった。
エレベーターに乗り、自分の部屋のある7階まで上がっていると。
4階でエレベーターが止まった。
乗り込んで来たのは、彼女だった。
手には、市の指定ゴミ袋を提げており、ゴミ捨てに降りるようだった。
「上ですよ」
僕は声をかけた。
7階に行くエレベーターだ、4階の彼女が乗る理由がない。
だが、彼女は無言で会釈するだけだった。
どうせ乗っていれば最後には下がるから面倒になったのかな、と思い、それ以上聞かずドアを閉めた。
彼女が持つゴミ袋は45リットルの一番大判なものだったが、中に入っているものは小さそうだった。
色々考える間もなく7階に到着して、僕はエレベーターを降りた。
背後でエレベーターの扉が閉まる音を聞き、ふと振り返ると、彼女を乗せたエレベーターは上にあがって行った。
翌々日。
受水槽、いわゆるマンションの水タンクから、バラバラ死体が発見された。
犯人は彼女で、被害者は彼女の夫だった。
殺害動機はDV苦で、何故受水槽に捨てたのかについては、「運ぶのが大変だったから」と供述したそうだ。
だとしたら。
あの時は、一体どこを運んでいたのだろう?
受水槽に・・・
DVから解放されたとは言え何とも言えない話ですね。