これ、俺が大学のゼミ仲間だったA子から聞いた話です。
久しぶりに会った彼女は、ガリガリに痩せていて、俺の顔を見て話しているはずなのに、視線だけはずっと俺のすぐ後ろの壁を気にしていました。
「誰か立ってるの?」って聞いても、「ううん、何も……」って力なく笑う。でも、目がずっと泳いでいる。
彼女が震える声で、ぽつぽつと話してくれた内容です。
A子は学費のためにキャバクラで働いていて、そこでBさんという常連客と知り合ったそうです。
その人は全然ガツガツしてなくて、いつも「無理しなくていいよ」「君は頑張りすぎだ」って優しく声をかけてくれる人だった。
ある日、A子が足を痛めた時も、何も言ってないのに
「左足、痛むでしょ。今日は早く帰りな」
って言われたらしい。
その頃は、「この人だけは分かってくれてる」と思っていたそうです。
でも、少ししてから変なことが起き始めました。
夜、一人で歩いていると、すぐ後ろで誰かの呼吸が重なる。
振り返っても誰もいないのに、首のすぐ後ろに、熱い吐息だけが残る。
それをBさんに話すと、彼は少しも驚かずに、こう言ったそうです。
「最近、眠れてないでしょ。家でも落ち着かないはずだよ」
実際その通りで、わざと遠回りして帰っていることも、電気をつけたまま寝ていることも、「なんとなく分かる」と言って言い当てる。
A子は怖くなりながらも、いつの間にかBさんにしか相談しなくなっていました。
そのうち、体にも異変が出始めたそうです。
夜、布団に入ると、指が勝手に動く。
自分の意思じゃないのに、誰かに触られているみたいに、首や胸をなぞる。
A子は泣きながら、俺に首筋を見せてくれました。
内側から浮き出たみたいな、赤黒い指の跡がはっきり残っていました。
金縛りの時には、真上から「二つの目」が覗き込んでくる。
そして、Bさんと同じ声で、「大丈夫、支えてあげる」って囁く。
一番怖かったのは、鏡を見る時だと言っていました。
笑いたくないのに、顔が勝手に笑う。
中から、誰かに無理やり動かされてるみたいだったそうです。
A子は限界になって、店を辞めて実家に帰りました。
駅でBさんに最後に会った時、彼はいつも通り穏やかに言ったそうです。
「安心して。今夜もちゃんと見てるから」

























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