豚肉ぎらい
投稿者:件の首 (54)
私が子供の頃、北海道の石狩地方で一時期猟友会に入っていた、曾祖父の三郎から聞いた話である。
太平洋戦争前、1930年代。
祖父の住む村で、村長の7歳の息子である利男が行方不明になった。
利男は病死した前妻の子で、よく夜中に母親を探して庭に出る事が多かったという。その夜も、利男の姿を使用人が見かけていた。
当時猟師見習いだった三郎は、父親の重治と一緒に山の探索に動員された。
間もなく、上半身を丸ごと食われた状態の利男が、土の中から発見された。土に埋めるのはヒグマの習性だった。
利男を発見した村長の使用人は、とりあえず死体をそのまま埋め直したという。20年前の三毛別の事件で、ヒグマが獲物に執着する性質は知れ渡っていた為、誰も彼を責める事はなかった。
人の味を覚えたヒグマは撃たなければならない。猟師達は埋められた利男を目印に張り込んだが、丸一ヶ月経ってもヒグマは現れなかった。
村長はその尽力に感謝し、手間賃の他に仇討ちの報奨金に用意していた400円(今でいう100万円ぐらい)を山分けで猟師達に支払った。
それから半月経って、重治はヒグマに遭遇し、狩る事に成功した。
村長は大変喜び、ヒグマを丸ごと買い取って、村の外に運んで剥製にした。その作業中、やはり息子の衣類の切れ端や骨が出て来たという。
村長は重治に同じ額の報奨金を支払った他、毎年歳暮に、この辺りでは貴重な豚の味噌漬けを届け続けた。
豚肉が好物の筈の重治だったが、何故かこれに絶対箸を付けず家族に譲った。
そして三郎は、たまにこう重治が呟くのを耳にしたそうだ。
「……あれは若い熊だった。人間を頭から半分も喰える訳がない。後妻が来て、村長はすっかり変わってしまった……」
えっと…どういうこと?
後妻が好きになったから、邪魔な前妻と利男を村長が殺したってこと??