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ヒトコワ

バクシマさんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

オーバードーズ
短編 2024/09/09 12:42 1,422view
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これは私が大学生の頃の話です。
幽霊が出る話ではないのですが、今日まで恐怖で膝が震えたのは、あの場面だけですね。
当時、私は実家に住んでいました。
そして浪人生の弟もまた同居していたんです。
弟は、そのとき既に大学入試の二浪生。
追い込まれていたと思いますよ。
弟が精神科に通い出したとも、親から聞かされてました。
身内のことながら浪人って大変ですよね。
そしてそれは、ある深夜のことでした。
私が寝ていると「ドンッドンッドンッ」という鈍い音で目が覚めました。
その音を無視して寝直そうとしましたが、膀胱も張っていた為、私は用便に起きることにしたんです。
電気もつけずに暗い廊下を歩き、生暖かい便所に入り、眠気まなこで便座に座り、のったり小便をしているころ・・・

いつのまにか、あの聴き知らぬ音も消えていました。
さて、すっきりしたし部屋に戻って寝んべーっと思いましたが、出した分は水分補給も必要だーってんで、台所に水道水を飲みに行くことにしたのです。
台所への扉を開けると、
妙なことに、我が弟が薄暗い調理場で何か作業をしているのです。
深夜のことですよ。
腹が減ってカップラーメンを作っているなら分かりますがね。どうもそんなんじゃないらしい。
普段料理をしない弟がね。まさか手際良く夜食を拵えてるなんてのも想像できない。
なにをやっているんだろうと不審に思いましたね。
で、私は弟に訊ねました。
「なあ、お前なにやってんの?」
普通ね、深夜に薄暗いなか急に後ろから声をかけられたら、少しは驚く素振りを見せるものでしょう?
でもね、弟は私なんて全く意に介さないで自分の作業を続けるんです。

嫌な沈黙の時間でした。
でも、もう一度声をかけようとしら
「この包丁さ、研いでも研いでも、全然鋭くならないんだよ」
そう言うんです。
弟に近づき手元を見れば、なるほど包丁を研いでました。
でもなぜ深夜に?
全く意味がわからない。
しかし、弟は包丁を研ぐのをやめ、おもむろに包丁を逆手に掴むと、冷蔵庫の方へ振り返りました。
そうしたら、私もつられて冷蔵庫を向いちゃいますよね。
振り向いて、私、固まっちゃいましたよ。
大きな冷蔵庫の両扉が、全面にボコボコの穴だらけになってるんです。
そして、虚げな表情の弟はゆっくり冷蔵庫に近づくと、
無言のまま包丁を、何度も何度も突き立てました。
「ドンッドンッドンッ」

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