山の中の首無し地蔵
投稿者:with (43)
俺とBは動揺するだけで、どうにも山の中に引き返す気にはなれなかった。
山の中へ行けば、また例の生首と遭遇するかもしれないと思った。
そうやって足踏みしていると山の中からAが「おーい」と手を上げながら降りてきているのが見えた。
「なんじゃ、無事じゃんアイツ」
俺がホッと胸を撫で下ろしていると、BがAを指差して震えたように口ずさむ。
「あ、あそこ、Aの後ろの方…」
Bの言う通りにAの背後に焦点をあてた目を凝らすと、あの生首が木々の間からこっちを見ているのが分かり、俺は「うひっ」と肩を震わせた。
Aの到着を待たずしてまた走り去る俺達を見て、Aは怒り気味に俺達の名前を叫びながら駆け足で降りてくる。
それから馴染みの畦道に飛び出し、俺達三人は地上の有り難みを感じながらそれぞれ酸欠になりそうな体を休める。
「おまえら、置いてくとか、マジ無慈悲じゃ。友達じゃろ」
「いや、アレはヤバいじゃろって。てかはよ逃げや」
それぞれの言い分を一方的に投げ合いながら口論が続き、次第にどうでもよくなったのかこの後解散することになった。
全員、あの生首を見た後だと遊ぶ気分にはなれなかったんだと思う。
その日帰宅した俺は家族にこの出来事を話そうとしたがどうせ信じてくれるわけがないと思い、胸の内に仕舞うことにした。
翌日、学校へ行くとAがまだ来てなかった。
毎朝、教室に入るとだいたい誰かと喋っているお調子者のAが来ていない事に俺は不穏な空気を感じた。
そのままホームルームが始まるまでAが来なかったので、俺は担任に訊ねた。
「先生、Aは休み?」
「あー、ちょっと言いづらいんじゃけどな。Aは朝早く事故に遭ったみたいでの。親御さんからは命に別状はないんと報告を受けとるが、今手術中だそうじゃ」
俺は担任の言葉に衝撃を受けたと同時に、席の離れたBを見た。
Bも顔を青くして俺を見ていた。
その日の授業はほとんど頭に入らず、右から左に抜けていく状態だった。
放課後、下校前に廊下で担任に声をかけられた俺とBは職員室に連れていかれた。
単純に俺達とAが一番仲が良いことは担任も知っている事だったので、Aの容態の続報の知らせだった。
「さっき意識が戻ったらしい。何でも左折中のトラックに巻き込まれたそうじゃ。そん時、縁石に首をぶつけてしもうて首の骨が居れたらしいんじゃが、まあ、生きとうて良かったのう!」
担任は俺達の肩を強く叩いてAの吉報を笑顔で教えてくれた。
俺達もAの無事を知って歓喜してみせたが、やっぱり例の生首の事が気がかりだった。
Aが首を骨折したのは偶然なのだろうかと、俺とBは内心ビクビクと震えていた。
その週の休み、俺とBはAとの面会が許されたので、病室に赴いた。
「おう、久しぶりだな!」
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