山の中の首無し地蔵
投稿者:with (43)
それぞれがロープの上をなぞるように見上げるが、ロープの先はただ枝に結ばれているだけで、秘密基地など好奇心に触れそうな類いは何も見当たらない。
何のためのロープなのか俺達には理解できなかった。
すると、Aがロープを手で押して揺らして遊び始める。
ロープに押し出されたBが足場を崩してやんわりとこけてAに注意したが、Aは更にロープを激しく揺らし始めた。
「うわっ、やめーって、何か落ちてきよる」
巨大なロープが揺れる反動で木が削れた粉や土埃が雨のように落ちてきたので、俺は避難する。
その時、背後からAの「うわああっ!」という絶叫に近い声が耳に突き刺さったので、慌てて振り返ると、Aはロープに押し倒されたのか転倒して尻餅をついた状態で上を見上げていた。
「あはは、アホじゃ。ふざけるけそうなるんじゃ」
俺はAの自業自得だと笑い者にした。
しかし、Aの表情は顔面蒼白といった面持ちで開口したまま硬直するばかりだ。
不思議に思っているとBが「うわっ!」と短い悲鳴を上げたのと同時に、俺もAの目線を辿って見上げる。
ロープの結び目がある木の枝の上に、頭頂部を剃った落武者のような人の頭が鬼の形相をして俺達を見下ろしていた。
生首?髑髏に近いのか、俺は睨み殺すような落武者の形相に漏らしそうになりながら後退りし、木の根に足を取られて転んでしまった。
「うぎゃっ」
その時、何か石のように固いものに手をついたので咄嗟に振り向けば、先程見つけた無縁仏の頭部だと気づいた。
同じように乾いた泥でコーティングされ、そして何故かあの生首と同じように鬼の形相をしていた。
「ぎゃああああ」
俺は叫んでその頭部から手を離し、立ち上がる。
「逃げろ逃げろ!」
Bが半狂乱に近い甲高い声で叫びながら一目散に茂みへ逃げていくのを見て、俺は置いていかれると思い必死になって怯んだ足腰を動かした。
枝木や固い葉っぱで肌を切ることに躊躇せず、俺達は急いで下山していく。
深い森の景色からチラチラと麓の家屋の屋根が見えてきた辺りから俺は心底安堵し、段々と足並みも緩やかになっていた。
ここまで無言で走っていたBも余裕が出てきたのか漸く後ろを向いて口を開く。
「マジでやばかった」
「あれヤバすぎじゃろ、なんじゃアレ、幽霊?ホンマもんの死体じゃった?」
俺は息が整う前に一度に抱えていた疑問を口にした。
「さすがに死体には見えんかったけど…あれ?Aは?」
一呼吸置いてBがAの不在を問う。
俺は後ろを確認するがAの気配はどこにもなかった。
「ヤバ、置いてきたんかも」
「ヤバいじゃろ」
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