山の中の首無し地蔵
投稿者:with (43)
Aはベッドに座ったまま元気に挨拶する。
しかし、首のギプスがあの首無し地蔵を想起させて、俺はしどろもどろな挨拶を返した。
「おまえ前方不注意って聞いたぞ。ちゃんと前見て歩かにゃいかんじゃろて」
「まあ、元気そうで安心したわ」
いつもの軽口を叩き合うようなテンションで話しかけたつもりだったが、Aは少し引き摺った表情を見せて、溢すように綴る。
「実はさ、事故にあったときあの生首が道路に落ちとるのが見えてさ。拾え拾え言われとる気がして何か体が勝手に生首拾いにいって、気がついたら病院だったわ」
Aの独白に俺とBは顔を見合わせ、何と返したらいいか分からずに黙ってしまう。
変になった空気を察してかAは「まあ気のせいよな。寝不足じゃったけ頭ぼーっとしとったんかもな」と空元気に笑う。
生首の話に触れないように俺達は学校での出来事や近況を語り合った。
時間も忘れて話していたので面会時間も過ぎていて、ちょうど看護師がやって来たので俺達は帰る事にした。
「じゃ、またの。はよ回復せえよ」
「プリント届けに来るけえの」
「宿題あるんかい」
他愛もない掛け合いにAが笑ってくれたので俺達も安心したが、部屋を出かけたときにAが呼び止めた。
「おい、あれには気をつけえよ。無視じゃ、無視。じゃあ、またの」
看護師が首を傾げる中、Aの言葉の意味を理解できる俺とBは苦笑いしながら部屋を出た。
その病院からの帰り道、Bは俺に話してくれた。
「…実は、俺もあの生首が見えるんよ」
「は?」
Bが言うには何でも、Aが事故にあった日の帰り道、道のあらゆる場所、地面や塀の上、電柱や屋根の上、ましてや机の下やベッド下の隙間にも見えると言う。
そして言うのだ、「拾え」と。
「あれに耳を貸したらAみたいになるんじゃろな。おまえも見えたら絶対に無視で」
Bの力強い忠告に俺は固唾を飲み込んで頷いた。
あれから月日が経ち俺は他県の大学に進学したため実家を出て一人暮らしをしている。
つい最近BからLINEで「事故にあって入院した」と知らせが入った。
首を骨折したらしい。
そして、俺は最近例の生首を至る場所で見かける。
俺は小学生の時の行動を酷く後悔している。
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