僕は思い出した。
小さい頃に会った叔父だった。
「いやー久しぶりだなあ!」
叔父はそう言って上がり込んできた。
競馬場帰りらしく、まだ土の匂いがしている。
「お前、顔色悪いぞ。競馬でも負けたか?」
僕は必死に今までのことを話した。
騎手の霊、追いかけてくる馬、夢、蹄の音。
叔父は最初こそ笑っていたが、途中から真顔になった。
「……その競馬場か」
そう呟くと、しばらく黙り込んだ。
そして、重い声で語り始めた。
「30年前のあの事故な、表向きは落馬事故ってことになってるが……実は違う」
僕は息を呑んだ。
叔父は続けた。
「あの若い騎手はな、レース前から先輩騎手や馬主連中に囲まれてた。八百長だよ」
「八百長……?」
「そうだ。本当は勝てる馬だった。だが“抑えて負けろ”って命令された」
雨の音が、急に遠く感じた。
「本来のシナリオはな、先頭集団の馬が壁になって、そのまま後続が伸びないレースにするはずだった。だがあの若い騎手は、最後まで迷ってた」
叔父は煙草に火をつけた。
「それでも大雨の中、無理やり出走させられた。結果、あの事故だ」
僕は震えながら聞いた。
「じゃあ……あの騎手は……」
叔父は静かに頷いた。
「恨んでるのは“事故”じゃない。自分を追い込んだ連中だろうな」
しばらく沈黙が続いた。
そして叔父は立ち上がった。
「その競馬場の裏手に、小さい慰霊碑がある。地元の連中しか知らん」
「そこに行け」
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