ちょっと前に登山に行ったんだよ。
そこで封筒が落ちてたから、なんとなく拾って中を確認しようとした。
普段ならそんなことしないのに、なんでだろうな?
そしたら、女の声が聞こえた。
「うーん、及第点かな。不束者ですが、よろしくお願いします」って。
手に持ってたはずの封筒はなくなってて、目の前に女の子が笑顔で立ってた。
でも、透き通ってるんだよ。幽霊なんだよ。
で、「冥婚ってやつですよ。ついに私もお嫁さんかぁ」ってめっちゃ喜んでんの。
状況が理解できなくて、その子を見つめるしかできなかったんだけど、その子は何か勘違いしたみたいで照れてた。
ちょっと沈黙の時間があったんだけど、それに耐えかねたのか、「あっちにいい崖があるんですけど、行きませんか? それとも、実績のある高い木の方がいいですか?」って嬉しそうに提案してきた。
「いや、俺は普通に登山に来ただけなんだけど」って言って、そのまま登山を続けることにした。
でも、「登山、いいですよね。でも、滑落する場所は選ばないと苦しいですよ」って会話を続けてきた。
ずっと楽しそうに話しかけてくるから、黙ってるのも申し訳なくなって「あのさ、さっきから話の内容が不穏なんだけど……」って返したんだよ。
そしたら、前に回り込んできて「冥婚ですから、死んでもらわないと困りますよね」って笑ってた。幽霊ジョークは理解が難しいな。
「生きてる人間じゃなくて、幽霊と結婚すればいいんじゃないの?」
女の子にモテない俺としては、女の子が話しかけてくれるのは悪い気分じゃなかった。とはいえ、死ぬのは嫌だったけど。
彼女は笑顔のまま話を続けた。
「それはダメなんですよ。私は『冥婚するぞ!』って自殺したから目的意識がはっきりしてるんですけど、この山にいる人たちはただ漫然と死んだだけだから話もできないし、ただふらふら歩きまわってるだけだし……
だから、あなたには『私と冥婚するぞ! ラブラブカップルになるぞ!』って強い気持ちで自殺してほしいんですよ」
言ってる内容が怖すぎて愛想笑いもできなかった。
言葉に困って、「じゃあ、老衰するまで待っててよ」って軽い気持ちで言ったんだけど――「は? ジジイと結婚するわけないだろ! 若いまま死ねよ! すぐ死ねよ!」ってマジギレされた。
登山する気もなくなってすぐに下山したし、あれからは電車を待つときも線路から離れるようになった。
今でも隣にいるんだけど、ずっと猫なで声で自殺を催促してくる。
結婚なんて諦めてたけど、自分を好きでいてくれる女の子と結婚できるなら――もういいかな。

























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