Bという男は、典型的な「煽り運転」の常習犯だった。
大型のSUVを駆り、気に入らない車があれば極限まで車間距離を詰める。パッシングとクラクションで威嚇し、相手が恐怖に怯えて路肩へ車を寄せる姿を見ては悦に浸る――それがBの歪んだ快楽だったのだ。
その夜も、Bは深夜の旧道をあてもなく流していた。街灯すらなく、鬱蒼とした木々が両脇から覆いかぶさるような一本道。
前方に、トボトボと不自然なほど遅いスピードで走る一台の古びた白いセダンが現れた。法定速度を大幅に下回る、ノロノロとした走りだ。
「ちっ、トロトロ走りやがって。俺の邪魔をするなよ」
Bの内に潜む狂気が目を覚ます。アクセルを強く踏み込み、白いセダンの真後ろへピタリとつける。バンパーとバンパーの隙間は、わずか十数センチ。ハイビームを浴びせ、狂ったようにクラクションを響かせた。
プッ、ププーーッ!
「ほら逃げろよ! 車寄せろや!」
大声で罵声を浴びせかけ、煽り立てる。しかし、前のセダンは加速するでもなく、ブレーキを踏むでもなく、淡々と一定の速度で走り続けている。譲る気配すら、そこにはなかった。
不気味なほどの無反応さに、Bの苛立ちは頂点に達する。
「無視かよ……舐めやがって!」
Bは黄色いセンターラインを割って侵入し、強引にアクセルを踏み込んで追い抜きをかけた。追い抜く瞬間、相手のドライバーを脅かしてやろうと、Bは窓越しに隣の車内を睨みつけた。
しかし――Bの動きがピタリと止まった。
街灯もない暗闇の中、白いセダンの車内が、ぼんやりと青白く発光している。
そして、運転席には……誰もいなかった。
無人の運転席。誰も握っていないはずのハンドルが、道路のカーブに合わせて自律するようにカタカタと不気味に動いていた。
「な……んだ……これ……?」
Bの背筋に冷たい汗が吹き出す。
瞬間、カーエアコンの送風口から、ぬっとドブのような生臭い異臭が漂い始めた。
恐怖でパニックになりかけながらも、強引にハンドルを切り、その不気味なセダンの前へと躍り出た。「早く引き離して逃げなければ」という一心で、バックミラーを仰ぎ見る。
……いない。
あんなにベタ付けで並走していたはずの白いセダンが、影も形もなく消えていた。
「はぁ……はぁ?……消えた……? 夢でも見てたのか……?」
胸を撫で下ろし、アクセルを緩めたその時だった。
カーブを曲がった視界の先に、再びあの「白いセダン」が走っていた。
同じ速度で、同じトボトボとした足取りで。
「な、なんで前にいるんだよ! さっき追い抜いただろ!?」
























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