彼は立ち上がると、
まるで長く我慢していた者がトイレに駆け込むかのように柵へと走り、必死に登り始める。
毒島は息を呑む。
「……さっきの女は何だ」
朝生は短く答えた。
「分かりません」
そのときだ。
毒島の胸ポケットの携帯が鳴る。
着信表示は――「愛弓」。
彼の呼吸は止まる。
掌に汗が滲む。
震える指で通話に触れる。
毒島はその先に待つものを、すでに直感していた。
――悪夢は、まだ始まったばかりだった。
【了】
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