その客はボックス席の角辺りに、遠慮がちにポツンと座っていた。
ベージュ基調の地味なカーディガンに紺のスカート。
まるで主婦が買い物に出掛ける時のような、およそこのような店には似つかわしくないコーデだ。
年齢は恐らく四十代後半くらいか。
━見たことがない客だな。
そう訝しげに思いながら綺羅は「指名ありがとね」といつもの軽いノリで隣に座った。
※※※※※※※※※※
それからの会話はほぼ一方通行だった。
それは会話というより、綺羅の一人独演会という感じにも見えた。
彼は懸命にその女性の心の隙間に居場所を作ろうと、試みたがやはりダメだった。
そしていよいよ話題も途切れ二人の間に気まずい空気が漂いだした、その時だ。
「あの、、、」
突然女性が口を開いた。
「えっ、、なになに?」
これ幸いにと綺羅は彼女に問いかける。
女性は少しの沈黙の後、こう言った。
「会って欲しい人がいるんです」
「誰に?」
綺羅は女性の横顔に尋ねる。
すると彼女は初めて彼の顔に向き直ると、その目をじっと見つめながら言った。
「あずさ」
「あずさ?」
瞬時に綺羅は脳内の記憶メモリをスキャンしだす。
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