「血が出るのとか怖い話とかそういうのは見れないんです」
怪談の体験談を取材しているときによく言われることの一つだ。怖い話や奇妙な話。そのほとんどはできることならば聞きたくない、と感じるだろう。
「あ、でも自分で体験するのとかは全然平気で」
浅野さんに「怖い話とかホラーって見れますか?」と話を振った時、このような返事をされた。
「え?体験するのは平気ってどういうことですか?」
「今の職場、いわゆる出る場所らしくて。誰もいないのに壁を叩くような音なんてしょっちゅう聞こえますし、子供を見たとか女の人を見たとかみんな言ってるんです。でも慣れてきちゃって」
今の職場でも色々感じるらしいのだが、遡ること高校生の頃の話である。
「調べてもらえばわかるんですが、私が通っていた高校で昔に事故が起きたんです。四階から生徒が落ちて亡くなってしまったことがありました。毎年、その年の生徒会長がお墓参りに行くんですけど」
ある日の放課後。浅野さんは暗くなった学校を横目に帰路についていた。学校から人が居なくなった時間帯。
体育館と教室などが入っている本館を繋いでいる渡り廊下を制服を着た女子生徒が歩いていた。
生徒は皆帰ったはずだ。気分が良く軽くスキップでもしているのだろうか。前に進むたび、普通の歩きに比べると頭が上下し、楽しそうにしていそうに感じられる。その制服は、ひとつ前の世代のデザインだった。
「それが初めてはっきり見た体験ですね」
「今の職場の体験というのは?」
静岡県某所、工場勤務をしている浅野さん。さっきまで誰かが座っていたかと思えば、ふと視線を逸らした時にはもう誰も座っていない椅子。廊下を歩きながら壁を叩く音が聞こえる。誰も見覚えのない女の人や子供を見かけたという目撃情報。ここの職場では、色々な人から細かな証言を聞く。
お昼休憩の時、浅野さんは同僚の女の人とタバコを吸っていた。目の前には扉が二つあり、左側は男性更衣室。右側は女性更衣室が見える。もちろん更衣室の中は行きできず、更衣室から更衣室に移るには一旦、扉を出なければいけない。扉は磨りガラスで暖簾がかかっている。男性更衣室。磨りガラスの向こう側。
暖簾をまくりこちらを見ている白い陰の何者か。その者は暖簾から手を外した後、女性更衣室に移った。更衣室からは出ていない。壁をすり抜けたとでもいうのだろうか。
この話を職場の人に話したところ
「実はここの職場に亡くなった同僚の幽霊が居て」
と打ち明けられた。その人には見えていたらしい。亡くなった後も誠実に仕事に向き合っている同僚は今もなお、この世界で働き続けている。
























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