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心霊

溜塵穢さんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

傘待ち
短編 2026/07/06 23:39 31view

ある地域で流行った降霊術に、こんなものがある。

まず雨が降っていることが条件。時間帯は昼でも夜でもよい。傘を2本用意して、屋外で雑木林など人目につかないところに行き、1本を自分でさして立つ。もう1本は畳んだままで手に持っておく。そうするとどこからともなく

傘ない…傘ない…傘ない…

と聞こえてくるそうだ。

彷徨う何者かを傘を持って待つことになるので、『傘待ち』と呼ばれている。雨の日に突っ立っているだけでよいという手軽さから、肝試しでも利用されることが多かった。

この体験談もそんな肝試しが発端だ。ある女性が高校生のとき、何かの罰ゲームで傘待ちをやった。場所は地元の公園にある林の中、雰囲気重視で23時の実施となった。制限時間は20分、友人数名は終了まで少し離れた所で待機。彼女は友人のひとりから傘を拝借し、空いた方の手で自分のものをさして夜の林に立っていた。

怖いモノにいくらか耐性はあったが、今やっているのが降霊術であることを意識すると、居心地が良いとは言えない。だが腕時計のアラームが鳴るまでは帰れない。さっさと終わらないかな、と闇を見つめながらぼんやり考えていた。しばらくすると、

傘ない…傘ない…傘ない…

何者かの声が聞こえる。

ウソでしょ…?

一瞬取り乱したが、即座に考え直す。いやそんなわけない、きっと友人のイタズラだ。さすがにこれは洒落にならない、悪ふざけもいいところだ。

はいはーい、傘あまってるのでどーぞー!

こちらが怖がっていないと分かれば下らないイタズラを止めるはず。彼女は声のした方に向かって友人の傘を掲げた。すると、

ザッザッザッザ…

落ち葉の上を走るような足音が近づいてきた。そして何かが伸びてきて友人の傘に飛びつく。続けて押されるような感覚を受けバランスを崩し、彼女は背中から地面に倒れ込んだ。

1テンポ遅れて頭の回転が追いついてくると、自分が女に押し倒されたことを理解した。

女は借りた方の傘を両手でがっちり掴み、こちらへ押さえつけるようにして動きを封じている。髪の至るところに落ち葉やゴミが絡まっており、頭の一部が抉り取られたように欠損して、頭蓋骨や脳のようなものが露出している。そしてどうとも表現できない凄まじい形相で、同じ言葉を繰り返していた。

至近距離で聞くとそれは「傘ない」ではなかった。

逃がさない…逃がさない…逃がさない…逃がさない…逃がさない…逃がさない…逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさ

ピーピー、ピーピー。

腕時計が傘待ち終了を告げ、ハッとした彼女は傘を思いっきり振り払った。ぶん、と空を切る音を聞きながら彼女は冷静さを取り戻す。そう、手が動くということは、何も居ないのだ。

恐怖から幻でも見たか、我ながら情けない。しかしコケたのは事実、服がだいぶ汚れてしまった。程なく友人達と合流し帰宅したが、自分が見たモノは気のせいだとして誰にも明かさなかった。

あれは何だったのか、『傘待ち』が呼び寄せてしまったモノなのか、何も分からない。ひとつ明らかなのは、この奇妙な体験以来、彼女は遊び半分で心霊に関わるのをきっぱり辞めたこと。

今でも雨が降ると、あの声がどこからともなく聞こえてくる気がするんですよね。空が曇ってくると、それだけで何となく気が滅入ります。

彼女はそんなことを言って、話を終えた。興味のある方は『傘待ち』を試みて頂ければと思うが、自己責任であることはくれぐれも留意願いたい。

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