だがそんな名前はピックアップ出来なかった。
酒好きな彼は店内ではバーボンをロックで飲んでいるから指名客でもない一般客のことなど、ほとんど忘却の彼方なのである。
彼が動きを止めしばらく考えていると、女性は今度こう言った。
「ニット帽、、、バイク」
何ら関連性のない単語二つに、綺羅の頭の中はいよいよカオス状態になる。
結局その女性はろくな会話もせず、帰って行った。
「ニット帽、バイク」
この二つの言葉は彼の脳内奥の沼にゆっくり静かに沈んでいった。
※※※※※※※※※※
翌日綺羅が仕事を終え店の入口から出た時、彼はハッと息を飲む。
そこはちょうど店の向かいのコンビニ。
店内照明を背に、女が立っている。
逆光で見にくいが、
ベージュのカーディガンに紺のスカート姿を彼の視界が捉えた。
━嘘だろ、、、あの女だ、、、
こっちをじっと見ている
綺羅は気がついてないかのような様子で、送迎用の黒のベンツに乗り込んだ。
だがその日だけではなかった。
その翌日もまた翌日も、、、
━くそ!いったい何なんだよ、あの女。
彼は少し苛立ちを感じだしていた。
※※※※※※※※※※
そして翌週の土曜日のこと。
深夜いつものように綺羅は仕事を終え、店の入口から出る。
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