藤原という利用者。彼女は全介助が必要で、要介護度は当然5だ。
食事、排泄、入浴、全て職員が介入している。
全てこちらの自由にできる、ターゲットにするに相応しい利用者だった。
計画実行当日。私は遅番だったので、彼女の夕食介助をするのだけれど、いつもよりも数倍早く食べさせる。キザミ食を提供しているのだけれど、食事内容によっては更に細かく刻む必要もあって、結構面倒なのでいつもそのまま出してるのは私と佐藤さん。まあ別に大丈夫でしょと思う。
この日もそのまま出して、嚥下も確認せずにどんどん喉に詰め込む。
そして、最後にお茶で流し込んで、すぐに居室に連れていく。
口腔ケアもせず、投げるようにベッドに寝かせる。
就寝時の排泄介助を行わなければならないが、本来は清拭用のホットタオルを使用するルールになっているのをいつも通り無視して、パットだけ入れ替える。パットの種類は大中小の三種類だけれど、本来は中にして、夜勤者は二十二時に最初の排泄に入るのだが、大のパットにしておけば、二十二時は飛ばすことができるので、夜勤者的には楽になるのだ。
パット交換が終わると、私は彼女を仰臥位で寝かせた。これにももちろん理由がある。
あまり居室に長居するとなにか疑われでもしたら面倒なので、ここまでの準備を終えると早々に辞する。
夜勤者の佐藤さんに「大パット当てといたので」と伝えると「サンキュー」と感謝される。
結城さんが夜勤の日は、食後に三十分以上経ってからでないと利用者を寝かせられないのだけれど、佐藤さんは楽をしたい人なので、バンバン就寝介助をしていくと喜ばれるのだ。
他の利用者も床に付き、私はその日の仕事を終え帰宅する。
そして翌日。藤原が死んだと聞かされる。
私が日勤で出勤した時、疲れ切った佐藤さんが休憩用のソファーでぐったりとしていた。
藤原が死んでいるのを最初に発見したのはもちろん夜勤者である佐藤さんで、排泄のため訪室すると、顔色不良で呼吸をしていない藤原がベッドで横たわっていたとのことだった。
うちの施設はショートステイ等も併設されていて、全体で八つのフロアがあり、夜間帯の責任者が緊急時の対応をすることになる。すぐにその責任者に報告し、藤原は救急搬送することになったのだけれど、もう既に息をしていないので、その時点で死亡は確実だったのだろう。
どうやら死因は、嘔吐した吐瀉物が喉に詰まり、呼吸ができなくなったための窒息死であるみたいな話を聞き、私は大変でしたねと佐藤さんに声を掛けると、ちょっとだけ睨むようにこちらを見たあと、舌打ちしてそのままゴロリとソファーに横になった。
お前のせいで、と言いたいのだろう。
その日、私の他にも出勤していたのは、番場さんと、六十歳を過ぎてから再雇用になった江田さんという女性で、相談員の北島さんは何やら忙しそうにフロアを行ったり来たりしていた。
その日はなんとなく悲しいねみたいな雰囲気で、藤原の死を悼む空気感の中仕事をしていたのだけれど、番場さんは私が落ち込んでるだろうと思ったらしく、「……気にしないで大丈夫だからね」と優しく言ってくれた。
翌日、緊急のフロア会議が開かれる。
既に職員は全員、藤原が死んだことを知っているので、突然の会議の理由は誰も訊かなかった。
藤原が死ぬ前日の様子から夜間まで、どのような介助を行い、本人の様子がどうだったかなどが、次々に結城さんの口から語られる。
利用者に感情移入する傾向がある江田さんは、涙を浮かべながらうんうんと頷きながら聞いていた。
一方で、私はソワソワしていた。
一刻も早く、私を糾弾してほしいから。
今日はどんな言葉で詰られるんだろう。
もしかしたら頬を叩かれてしまうかもしれないな。
想像するだけでワクワクしてくる。

























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