ああ、その時番場さんはどうやって私を救ってくれるのかな。
身を挺して、私の代わりに結城さんから叩かれてしまうのだろうか。
それとも、結城さんを怒鳴りつけてしまうのだろうか。
私は頬が緩まないように、自分の太ももをつねりながら、なんとか笑いを堪える。
どうせこのあと叩かれるなら、多少は緩ませてもいいのかなという気がしなくもないけれど。
「……以上です。もう二度とこういうことがないように、全員が気を付けていきましょう」
……あれ? 終わり? なんで?
私への言及は一切なかったし、結城さんがこちらに視線を移すことすら一度もなかった。
どういうことなのだろう。このあと個人的に呼び出されて叱責されるのだろうか。
しかし、私の予想は外れる。
呼び出しどころか、結城さんは一言も私と会話をしなかった。
「嘘でしょ……」
思わずひとりごちてしまう。
せっかくあそこまでお膳立てして、藤原もちゃんと死んだのに、なんで私はお咎めなしなの? 納得がいかない。
そして私は仮説を立てる。
恐らく、夜勤者の佐藤さんの責任だと考えているのだろう。
私の介助がどうだったかなんて、当日出勤してなかった結城さんも、その時間にいなかった他の職員も知る由がないし、佐藤さんが私の適当っぷりを告げ口することも考えられない。
なぜなら、私は佐藤さんに「大パット当てました」と伝えていて、佐藤さんはそれに対して感謝を口にしていた。それを許容するどころか、ありがたいと思っていたのだから、その事実を万が一私が結城さんに言ってしまえば、佐藤さんは更に窮地に追い込まれてしまうかもしれない。
というより、佐藤さんは砂糖さんで、その適当っぷりは周知でもあるし、むしろ私より疑われるべき存在であるとも言えそうな気もする。
佐藤さんはなかなか狡猾な人だし、周囲の自分に対する評価も理解しているはずだし、如何に自分に非が及ばないかだけを常に考えているような人間なので、その辺は抜かりないはず。
下手な言い訳をして、「若林に罪をなすりつけている」と思われることを避けているのかもしれない。
そして、結城さんや北島さんは、佐藤さんが夜間帯に巡視していなかったことも問題視しているはずだ。
本来なら一時間ごとの巡視が義務付けられているが、佐藤さんはまず巡視自体をしていないことは明らかで、どうせ排泄で放室するんだから、わざわざ見回る必要がないと以前言っていたことがある。
ということは、罪の比重としては、圧倒的に私よりも佐藤さんが重く、今回のことは佐藤さんが責められる対象になるのは間違いない。
ヒヤリハットでは済まないだろうし、事故報告書でも書くのだろうか。でも、明確な過失と言えるのかな。
気になって仕方なかったので、なんとなくを装って、番場さんに訊いてみる。
「まあ、多分、事故報は書かないんじゃないかな。事故と言えば事故だけど……どうだろ。その辺は結城さんの判断ってより、看護と施設長がなんて言うかだけどね」
なるほどーと言いながら、やっぱり佐藤さんの責任になってるんだなと理解する。
…………。
しょうがないか。
またチャレンジすればいいだけだし。
まだ使える奴はいるから、次の作戦を立てるか。


























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