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意味怖(意味がわかると怖い話)

入月麗奈さんによる意味怖(意味がわかると怖い話)にまつわる怖い話の投稿です

十枚目の写真
長編 2025/08/18 15:30 4,037view
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新宿駅の京王線改札出たとこに催事場っていうか、イベントスペースみたいな場所があってさ、今もやってるのか分からないけど、物産展とかトークショーとかよくやってたんだよ。
んで、俺は当時宅配業者で働いてたから、そこに荷物届けたことが何回かあって、たまに売れ残った和菓子とかもらったりもしてた。

物産展の時は、割と分かりやすく北海道フェアとか沖縄フェアみたいなのが多くて、他にもオリンピックの金メダリストがトークショーしてた時もあったんだけどさ、たまによく分かんない商品売ってる店とかもある。
どっかの民芸品なんだろうけど、使い方の想像もつかないような玩具とか、呪いのアイテムか?みたいなキーホルダーとか。

でも、そんなのよりも、もっと分からない物を売ってる人がいたんだよ。

五十代半ばくらいなのかな、髪が長くて、後ろで縛ってるんだけど、なんかやけに綺麗な髪だなーって印象だった。
後ろ姿だけなら二十代って言われても信じられるくらい綺麗だったんだけど、顔は普通におばさんなんだ。ブスとかじゃないんだけど、年相応っていうか、豊麗線ばっちり刻まれててさ。まあ年齢聞いてないからいくつなのかは知らないけど、多分五十とかそれくらいだったと思う。

で、売ってるのがさ、写真なんだよ。
しかも幻想的な風景とか、面白い瞬間を撮った写真とかじゃなくて、自分の写真なの。

普通あり得るか? どんだけ自己評価高いんだよって話だよな。

でもちょっと考えたんだけど、あれ、この人もしかして昔は有名な女優さんだったんじゃないかな?
もしそうなら、プライベート写真とかも値打ちものだろうし、ファンなら垂涎ものかもしれない。

近くで写真を見たら思い出すんじゃないかなって思ったんだけど、買う気もないのに見せてもらうのもなーとか、そもそも仕事中だし会社の制服着てるから、なんか機嫌損ねてクレーム入れられるのも嫌だなーとか考えてたらなかなか近付けなかったんだよな。

でも、俺はラッキーだった。そのおばさんが売り場から離れたんだよ。多分トイレだろう。
催事場にはトイレがないから、近くにあるトイレまで行かなきゃなんだけど、二つあるトイレはどっちも片道一分弱はかかるんだよ。排泄に数分かかることを考えたら五分くらいは店を離れなければならない。
だから、普通は二三人で切り盛りするんだけど、おばさんはいつもひとりだった。
だから、誰もいなくなったんだ。小さいテーブルの上に置かれた数枚の写真は、無防備にもなんの防犯対策もなくただ並べられていた。

まあ、冷静に考えたら誰がこんなん盗むんだって話だし、得体の知れない写真なんか盗んで前科がつくなんて馬鹿らしすぎるから、持ってく奴なんていないだろう。そもそも客なんてひとりもいないはすだ。少なくとも俺がいる時には常におばさんがひとりでパイプ椅子に座って、ボーッとしてた。

そんなことを考えながら、俺はこのチャンスを逃すまいと小走りで写真の前に向かう。
で、まじまじと見る。

……全く心当たりがない顔だった。

写真は、今よりもいくらか若いおばさんと、彼氏だか旦那だか分からないけど、同じくらいの年齢っぽい男性のツーショットばかりだった。

一番端っこに置かれてるやつが一番若そうに見えたから、俺はまずそれを細部まで観察してみる。

これ、多分旅行先で撮ったやつだな。
雪が凄くて背景もいまいち判然としないから何県なのかも分からないけど、北海道とか、まあ北の方だろう。
男の方は笑顔なんだけど、若い頃のおばさんは全く笑ってない。不機嫌そえな感じでもなくて、ただ無表情だった。

ぱっと見だと何の変哲もない写真だ。
では隣の写真はどうだろう。
これはどこだか分かりやすい。金閣寺だ。
金閣寺を背にして、笑顔の男と、やっぱり無表情のおばさんが並んで立ってる。
一枚目との違いといえば、男の頬に絆創膏が貼ってあることくらいかな。

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