うちのオカンは結構抜けてるところがあって、いわゆる天然って感じなんだけど、それがめちゃくちゃ可愛いんだよな。
息子の俺が自分のオカンを可愛いって言うのもなんか気持ち悪い話だけど、でもほんと、客観的に見ても可愛らしいんだよ。
例えば、うっかりミスなんかはしょっちゅうだし、聞き間違えたり変な解釈をして突拍子もないこと言い出したり、クイズ番組観ながら嘘みたいな回答連発したり、とにかく一緒にいて笑いが絶えないんだけど、でもやっぱ天然な人って心配になることもあるんだよな。
純粋だから騙されやすいっていう欠点もあって、訪問販売でなにか買わされたりとかもあるし、何回クーリングオフしたかわからないんだよ。
お金を貸して返してもらえないとかだって何度もあるし、特に金銭面ではいっつも注意をしてたな。
でもやっぱ、一番驚いたのはあれだな。
車の運転が好きだったオカンは夜中のドライブが趣味で、週に三回くらいは一人で近場の山の方まで走りに行ってたんだけど、あの日――7月頃だったかな、「たっちゃん! 大変!」って、騒がしく帰ってきたんだよ。
「落ち着けよ。どしたん?」って俺の飲みかけの麦茶を手渡したら、それを一気に飲み干して「人、轢いちゃった!」って、ゲップしながら言ってんの。
うえーまじかよ……でもそれって野生のたぬきとかそういうのやろーって楽観的な俺の腕を引っ張ってガレージまで連れて行くオカン。
「ほら、これ」
やれやれって感じで車を見ると、結構ガッツリ凹みができてて、あーあぶつけたのはほんとだったかーと嘆息しながら助手席に目をやると、血だらけの女がぐったりしてる。
「誰これ?」
「轢いちゃった子」
顔面が血に塗れてるからパッと見で何歳かわからなかったけど、服装とか髪型を見る限り、高校生くらいの女の子だった。
「ねーたっちゃん、これどうしよ」
俺の手首を握っているのとは反対の手にはさっきまで麦茶が入っていたコップをしっかり持ってて、こういうところもなんか天然ぽくて可愛いんだよなと思ってしまう俺は身内贔屓が過ぎるのかもしれないなーなんて苦笑しながら運転席に乗り込み、オカンには後部座席に乗るよう指示する。
で、深夜の山へ瀕死の少女を埋めに行く。
スコップはトランクに積んであったけど、一本しかないから穴を掘るのは俺一人でやった。
結構しんどいんだよな、穴掘りって。全身の筋肉使うし、しかも人が入る大きさだからな。
でも、オカンはオカンで何もしてないわけじゃなくて、ちゃんと隣で俺を応援してくれてて、しかも独自のオリジナル応援ソングとか歌ってるし、笑っちゃってスコップに力入らなくなるからやめろやーとか言いながら、日の出までにはそこそこ深い穴が完成して、そこにピクピクと痙攣してる少女を入れる。
なにか言ってるんだけど、聞き取れないから俺は諦めて少女の顔にも土をかぶせていく。
土をならして落ち葉とかも周辺と同じ感じで散りばめていると、日が昇り始める。
オカンと二人でしばらく見惚れてたよ。
なんで早朝の太陽ってあんなに神秘的なんだろうな。
で、疲れた俺の代わりにオカンが運転して帰宅する。
俺はその日大学を休んだし、オカンもパートを休んでた。
これもちょっと恥ずかしい話なんだけど、その後二人で俺のベッドで寝たんだよな。
まあ、当時の俺はまだギリギリ十代だったし、年齢的にはおかしくはないんだろうけど、やっぱちょっと照れるな。
あれから10年経ってるしもう時効だから俺もオカンもその件はすっかりどうでもよくなってて記憶も曖昧なんだけど、あの時は大変だったよねーって未だに笑い話になる。
50を過ぎたオカンは相変わらず天然で可愛いし、俺も将来こんな嫁が欲しいなって言うと、くすぐったそうに笑うオカンがまた可愛い。























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