ほらね? と首を少しだけ傾けるジェスチャーをキザっぽくなくできてしまう番場さんはやっぱり素敵だ。
「でも、ほんとどうにかしてほしいのは正直なところだよ」
私達の会話に割り込んできたのは、相談員をしている北島さん。彼女は基本的には優しいけれど、時に感情的になって怒鳴りだすので、話す言葉にも注意が必要だ。
「利用者さんが怪我する度にさ、私が家族に連絡するんだから。もう何回目ですかとか言われたくないんだよ。別に若林さんをこれ以上責めるつもりはないけどさ、でも、利用者さんをお預かりしてるんだからね、私達は。もっと集中して仕事してほしいんだよ」
「はい……」
たしかに、転倒の度に家族連絡をする立場の人は嫌だろうなとは思う。そういう意味では一番迷惑を掛けているのは北島さんかもしれない。
「……若林さんさ、今北島さんが言ったことちゃんと理解できてる? 意味わかってる?」
「……はい」
「じゃあ説明してみて」
結城さんの一番苦手なのがこの「説明して」なのだ。理解してるかどうかを言わせることで理解度を測るのは確かに有効かもしれないけれど、そんなもの、適切に言葉で言い表せることばかりじゃないこともわかってほしい。
「ほら、わかってないじゃん。なんなの? マジで」
「まあまあ。結城さん、今日明けだからきついでしょ? あんまり会議長引くの。とりあえず若林さんの件は一旦終わりにしようよ。会議進まないしさ」
今日の結城さんは夜勤明けで、昨日の夕方十六時頃出勤してるので、もう十八時間以上ここにいる。しかも、担当してるのは2つのユニットで、隣接するもうひとつのフロアにいる十人も対応しなければならず、それなりにハードな環境なので、夜勤者の明けはボロボロになってることが多い。
私は社員だけど、夜勤はやっていない。というか、やらせてもらえない。私自身は別に構わないと言っているのだけれど、リーダーである結城さんが「絶対駄目」と許可してくれないのだ。その分他の職員にしわ寄せがいってしまい、夜勤回数が必然的に増えてしまっているのだけれど、それも私のせいみたいにされていて、更に居心地を悪くさせる。
「……じゃあ次にいくけど、ほんともういい加減にしてよね。来月はこんなの議題のひとつにさせないで。――佐藤さんはさっきから何も言ってないけど、なにかあります? 言いたいこと」
「いーえ。俺は別にどっちでもいいし。まあ、単純に能力低いだけじゃね? どうしようもないと思うけど」
佐藤さんは四十代半ばの、少し強面な感じの男性だ。介護歴は長いのに、未だに資格は初任者研修くらいしか持っていない。ヘルパー2級だったかな。性格は適当で、面倒なのが大嫌いな人だけど、要領がいいので、私と違って卒なく仕事を熟すベテラン職員だ。
「はあ……。じゃあ次」
その後は淡々と間近に迫った行事のことや、施設内研修の話だけの業務連絡で、昼食時間が迫っていることもあり、あとは各自配布した資料に目を通しておくこと! という結城さんの言葉で会議は終了する。
「あんまり気にしなくていいからね。まあ、気にしなきゃ駄目なことでもあるけどさ、気楽にやるほうが逆にミスも減るだろうし」
そんなフォローも忘れない番場さんに抱きつきたい衝動を必死に抑えながら、「ありがとうございます」と、涙がこぼれる前にその場から離れた。
それからの私はミスが減った。文句を言われたくないので気をつけたからっていうのがもちろん最大の理由だけど、でも、番場さんが結城さんに怒られるのが忍びなかったからでもある。
いつもいつも、私を庇ってくれて、激昂する結城さんを窘めてくれるのは番場さんで、その度に八つ当たりされているのに、それでも私を守ってくれる。優しいし、頼りがいがあるし、私はもう番場さんのことしか考えられなくなっている。
しかし、ミスが減ったことによって、ひとつ問題が生じた。
番場さんが私を庇う機会が減ったのだ。
それはもちろん必然でもあって、庇う必要がなくなっただけの話なんだけど、私は私を守るナイトの番場さんが大好きなのだ。
私の為に、上司に歯向かう番場さんが大好きなのだ。
その姿が見れないのは、私にとって大きなストレスでしかなく、結城さんから注意されること以上に、私の精神を不安定にさせた。
そして、私は行動に出る。
「……こいつでいいか」


























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