通勤途中にあるサイクリングロードの脇に小さな広場というか休憩スペースみたいな場所があって、そこには墓石がひとつ置かれている。
いかにも普通のお墓って感じの墓石で、端っこの方にポツンとあるんだけど、私が出勤する日の、しかも出勤時間には毎回同じおじいさんがお墓参りしていて、手を合わせてお祈りしてるっぽい。
身内が眠っているお墓なのかな?
いわゆる無縁仏ってやつだろうか。
でも、こんなところって言っていいかわからないけど、墓石がズラリと並ぶ墓地じゃなくて、人通りがあるとはいえ、突如芝生から生えてきたかの如く、ぽつねんと一個だけあるっていうのは寂しくないのかな。
ある日、いつものように勤務先のドラッグストアに向かっていると、ブロンド美人がお墓の前にしゃがんで、両手を合わせていた。
こんなところに(また言ってしまった)金髪碧眼の外国人が、しかも超絶美人がいるなんて、なんて似つかわしくないんだって、自転車に跨ったまま呆然と見つめていると、その美人はこちらに向かって歩いてきて、「どうぞ」と片言っぽい日本語を私に向かって言った。
どうぞって言われても……。
ニコリって音が聞こえそうなくらいに麗しく微笑んだ美人は、墓石から三歩くらい離れてこちらを見ている。
あれ、これ私がお参りしないといけない雰囲気?
渋々っていうのもあれだけど、じゃあまあ、言われた通りにしますかと、私は、墓石前にしゃがむ。
近くで見たのは初めてだけど、いたって普通の石にしか見えない。
とりあえず両手を合わせてなむなむ言ってみる。
これで良いのかな?って振り向いたら金髪お姉さんはいなくて、ジョギングの休憩中なのか、スポーツウェアでベンチに座りながらゼーハー言ってる若者だけしかそこにはいなかった。
なんだって言うんだいったい。
あれか? いわゆるパワースポットってやつなのだろうか。外国人観光客にも知られてるくらいだから、意外と有名なのかもしれない。
まあいいかどうでもと立ち上がろうとした私は、墓石に刻まれた名前に気付く。
なんかいっぱい書かれてる。一センチくらいの小さい文字で、墓石の表面(こっちに向いてる面)に、縦書きで三十くらいの名前が並んでいる。
そして驚くべきことに、そこには私の名前があった。
「なにこれ」
思わず声を出してしまったくらいに驚きはしたけれど、不思議と恐怖心とかはなかった。
墓石に自分の名前が刻まれているなんて、こんな不吉なことなんてないけど、でも、もしかしたら私の知り合いが作ったモニュメントなのかもしれないし、同姓同名の別人のことかもしれない。
で、何となく腕時計に目線をやると、思いっきり遅刻確定の時刻になっているではないか。
うおーやべー! しかも今日店長いるんだよー!
って、立ち漕ぎダッシュ。
ビュンビュン車が横切るのを目で追いながら、信号が青に変わった瞬間、全力でペダルを踏み込む。
カンカンカンって音が踏み切から聞こえてきて、あー遮断器降りちゃう! けどごめん、ギリギリ間に合いそうだから行かせて! って心の中で誰かに了承得たつもりの私は、遮断器を潜って踏み切りへと入るのだけれど、雨上がりで濡れていた線路でタイヤが滑ってしまい、思い切り頭からコンクリートに倒れる。
その数秒後、電車は私の上を通って、私の身体は細切れになってしまった。
一瞬だったとは思わないけど、でもあっという間ではあった。
私の人生は、いとも簡単に、至極簡単に幕を降ろしたのだ。





















じいさんは毎日来てるって事は毎日死んでるって事なのか